蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

ある丹波の老人の話(43)


第七話 ネクタイ製造その4

小林社長は、商品を担当者にも見せ、一応は商品の優秀性を認めてはくれたんですが、値段があまるにも安いのを不思議がり、しきりに小首を傾けるのです。

そこで私は、それは私の店では他店の如く仕入れ係への高い運動料を含まない分だけ安いのである、ということを社主クリストの精神から説いて大いに小林氏を煙に巻いたんでした。

小林さんは「よく研究して返事する」ということでしたが、私は確かな手ごたえを感じておりました。

果たしてそれから数日経つと小林さんがただひとり、私の豆のような店を探すのに一時間もかかったといいながら自動車で来訪され、

「いかにもあなたの言われるとおり開店間もない私の店の仕入れ係もワイロを取っておった。そこで今後のみせしめのため、その3人の仕入れ係をかわいそうだが解雇しました。それからこれから私の店ではあなたの会社のネクタイを主として販売することにしたから、せいぜい勉強して納入してください」

とおっしゃいました。