蝶人戯画録

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鎌倉市図書館のポスターを評す

茫洋広告戯評第14回 &バガテルop144&鎌倉ちょっと不思議な物語第243回

鎌倉の御成小学校の辺りを歩いていたら、「万巻の書をよみ 万里の道をゆく」という鎌倉図書館創立100周年の記念ポスターが貼ってあった。明治44年に当時の町民の篤い志によって市のはじめての公立の図書館がこの地に誕生したのである。

私は昔からこの言葉が好きだ。積極的かつ能動的だし若々しい青春のエネルギーを感じさせる名文句で、これを図書館の広告の惹句に据えた人物の才知を高く評価する。少なくとも先日広告文案製作者たちが歴代トップと評価した糸井某の「おいしい生活」などという下品な時代の下半身に媚びた品性下劣な無脊髄コピーより遥かに上等であると思う。

そういえば海江田万里というかつては反小沢だったのに今度は一転してこの闇屋の帝王にペコペコ頭を下げる無節操な政治家がいた。私はこの男の人物と政略を好まないがその名前に限っては好きである。

おそらくこの人の父親は漢籍に明るい文人で、中国明代の書家、董其昌の処世訓を、かくあれかしと願いつつ自分の子供につけてやったに違いない。董其昌は書家にとって最も重要な「気韻生動」を獲得するためには、万巻の書物を読み、万里を歩くべきであると唱え、かつ実践したのであったが、かの海江田氏が万里どころか半歩も進めずに挫折したのは、頃年惜しくも夭折した米原万里嬢に一籌を輸するといふべきか。



いま私ショパンを弾きたいんですという少女 蝶人