蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

ハルモニア・ムンディ盤で「18世紀音楽輯」を聴く


♪音楽千夜一夜 第229回

またしてもクラシック愛好家に悲報が齎されました。とうとう英EMIが倒産してソニーに身売りし、CDの販売権はユニバーサルグループを傘下に持つ仏ビベンディに叩き売られたそうですが、昔から耳目になじんできたレーベルの解体は、私らが相亘って来た音楽渡世のはかなさと虚しさを象徴しているような気も致しまする。ああ資本主義の世の中の酷薄さよ!

さて本CDは哀れソニーGの軍門に降ったハルモニア・ムンディが特別編成した『啓蒙主義の時代〜18世紀の音楽』の輝かしい76の作品を集めたもの。収録された30枚のCDをぜんぶ聴くとざっと33時間掛かりますが、これがもういわゆるひとつの至福の時。これくらい興趣と変化に富み音楽の全盛時代の精華を堪能させてくれるコレクションも少ないでしょう。

クリストフ・ルセの優雅なチエンバロ演奏によるラモー、クープランの組曲に始まって、ヘレヴェッヘシャペル・ロワイヤルによるカンプラのレクイエム、その後にはヘンデルのソロモンをベルリン古楽アカデミーの演奏で聴き、ヴィヴァルディやバッハの協奏曲、ハイドンモーツアルトの交響曲、ラモーやグルックモーツアルトのオペラをクリスティやルネ・ヤーコプスの指揮で楽しみ、おあとは古典派のピアノソナタと弦楽四重奏曲を東京カルテットの最新録音などで聴きまくる。

選曲に意外性があり、演奏も録音も抜群。しかもお値段は1枚当たり238円! 嫌な事ばかり続いた今年を滅却するクリスマスの贈り物にもぴったりの素敵な音楽玉手箱です。


 嫌な事は全部忘れてコンチエルト・ケルンの「フィガロの結婚」を聴いていました 蝶人