蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

もっとばかばかしいことを書いてみたくて


バガテルop149

朝パソコンをあけてみるとこんなメールが入っていた。

「実は私たち、お互いに別の母親を持つ腹違いの姉妹でして、幼少から複雑な家庭環境にストレスを感じ、次第にお互いを性的に癒すようになりました。

その関係はもう十年以上にも及ぶのですが、今回どうしても男性も交えて3人で性行為をしたいと姉の香那が言い出しましてお願いに上がりました。

口止め料とお手間賃を含めて現金であなたにお支払いしようと思ってます。
それに私たちとの関係が長く続けられるのであれば、とても嬉しいのですが…

貴方の器で受け入れてもらえるなら上記条件で如何でしょう?
素敵な返答お待ちしています。」


私のパソコンには迷惑メール対策が施してあるので、毎日たくさんの勧誘メールが自動的にカットされているが、それでもその強固な防壁をかいくぐって上記のような魅力的なおさそいが飛び込んでくることも、あるのであるのであるん。

これらはすべて専門の業者が事あれかしと手ぐすねひいて仕掛けている営業用メールであり、これをクリックするとどういう事態が待ち構えているか知らない私ではないが、それにしてもなかなかよく出来た作文ではないだろうか?

特に「お互いに別の母親を持つ腹違いの姉妹」という枕には谷崎潤一郎的な隠微な小説世界が設定されており、おもわずぐっと生唾を呑んでしまう。さらに「お互いを癒す」「その関係はもう十年以上にも及ぶ」という前振りに続いて「今回どうしても男性も交えて3人で性行為をしたいと姉の香那が言い出しましてお願いに上がりました」とおずおず切り出す辺りは、ゴーストラーターの並々ならぬ文学的手腕を感じさせるではないか。

が、惜しむらくはその後の展開で、他の勧誘メールと同じような紋切り型に堕している。ことに「貴方の器で受け入れてもらえるなら」というフレーズは最悪で、この手だれ作家は、私のように思わずベルトの下をちらっとのぞいてがっくりしてしまう男性もいることをすっかり失念していたのであろう。

そんな次第で我知らず顔を赤らめ、それ以上の関係に猛進することが叶わなかった小心者のわたくしであったが、これに懲りず、もっともっとその気にさせる、さらなる名惹句を送って寄こしていただきたいものである。


ゆく秋や横須賀線はみな昼寝 蝶人