蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

リドリー・スコット監督の「ブレードランナー」を観て


闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.180

ディックの原作も面白かったが、もっと素晴らしいのがこの映像で、全篇を流れる終末観と虚無感がたまらなくいい。

人間が自分勝手な理由で製造したレプリカンが人間と見まがうような内容と外観に近接すればとうぜん生みの親に反逆するに決まっているが、昨日の友は今日の敵。今度は一転して人類の宿敵となったレプリカンをブレードランナーハリソン・フォード)が抹殺を命じられるというお話からして救いようがないのだが、最高の科学技術で精製されたくせに短命な美貌のレプリカン(ショーン・ヤング)がフォードに恋をするとくるから、その切なさもここに極まる。

特に印象的なのは女性レプリカン、ダリル・ハンナを屠ったフォードが強敵ルトガー・ハウアーに徹底的に追い詰められ、あわやというところでハウアーの寿命が尽きてさながら「あしたのジョー」のように雨の中に白く燃え尽きるシーン。見るべき程のことを見、人間フォードの見たこともない光景を見た彼は、平知盛のように世を去るのである。

そうしてラストのフォード&ヤングの逃避行はまるで「心中天網島」の道行きのように哀れで儚い。強力「わかもと」を服用しながら早くも21世紀末の纏綿たる情緒に浸ろうではないか。

夢の無き国に住まひて夢を見る 蝶人