蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

伊丹十三監督の「お葬式」を見て

kawaiimuku2012-12-06



闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.358

きのう歌舞伎役者の中村勘三郎さんが57歳で亡くなられた。惜しみてもあまりある才能の持ち主の突然の訃報に言葉もない。本当に人の命は明日をも知れないとまたしても思い知らされたが、謹んでご冥福をお祈りしたい。

だからという訳でもないが、今日の映画はこれになった。老人の突然の死、親族の驚きと参集、お通夜とそのドンチャン騒ぎ、葬儀、出棺、火葬とそのすべての局面が見事に映画になっていることに驚き感心する。こうしてみると確かに葬式は結婚式以上の映画ネタである。

伊丹監督得意の特異なテーマを選んでそれを劇化するあざやかな手腕も見事だが、本筋を離れたいくちものエピソードが随所にちりばめられていてそれが映画の感興をさらに膨らませていることも見逃せない。

雨の中の死と通夜、階段からおっこちそうになる棺桶、香典を吹き飛ばす突風、通夜の夜に宮本信子が歌って踊る「♪東京だよおっ母さん」なども面白いが、突如やって来た愛人の高瀬春奈に迫られた山崎勉が別荘の近所で青姦するところなどもエロくてグロくて好ましく、その間妻であり喪主でもある宮本信子が大きな横長のブランコに乗ってブヨーン、ブヨーンと漕ぎ続けるのも相当不気味で、ラストの美しいほほえみと好対照をなしている。

菅井きんも好演で、脇役の江戸家猫八、大滝秀治財津一郎藤原釜足がこれまた不気味な味わいを醸しだしていた。


私はゴキブリをゴム輪鉄砲でぶっ殺す名人 蝶人