蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

ジャレド・ダイアモンド著「昨日までの世界上巻」を読んで

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「これでも詩かよ」第14弾ある晴れた日に第143回&照る日曇る日第610回

 

「老いたる者をして静謐の裡にあらしめよ。そは彼等こころゆくまで悔いためなり」

中原中也は歌った。

 

しかしジャレド・ダイアモンド教授によれば、世界各地の伝統的小人数社会では、高齢者を遺棄するそうだ。

 

北極圏のイヌイット族、北米の砂漠地帯のホビ族、南アのウイトト族、豪州のアボリジニの間では、老人を食事も与えずひとりで放置し、死なせてしまうことがあるそうだ。

 

スカンジナビア北部のラップ族、カラハリ砂漠のサン族、北米のオマハ族とクテナイ族、南アのアチエ族では、野営地から野営地へ移動する間に老人を置き去りにするそうだ。

 

シベリアのチュクチ族やヤクート族、北米のクロウ族、イヌイット族では、老人を「自発的に自殺」させたり、自殺を教唆するそうだ。

 

チュクチ族では老人の自殺幇助や尊属殺人が許されており、

ニューブリテン島のカウロン族では、夫に先立たれた妻は、ただちに家族によって絞殺されるそうだ。

 

アチエ族では老人は窒息死させられ、絞殺され、刺殺され、生き埋めにされ、頭を斧で割られ、首や背骨を折られるそうだ。

 

ああ、信州の真冬の楢山に欣然として赴いたおりん婆さんよ!

あなたの気の毒な友達、けなげな同志は、世界中に存在していた。

 

そのうちそのうち年金制が破綻した大規模国家社会でも、

無一文の後期高齢者を有機粗大ゴミ扱いで、海や山にじゃんじゃん捨て始めるのだろう。

これでは老人はおちおち悔いてもいられない。

 

足元から忍び寄る飢餓の時代にあって、若者たちによって遺棄される運命のその晴れた冬の日、

天よ! 我ら老いたる者をして、かのおりん婆の如く胸を張り、誇りかに山の奥のその奥へと歩ましめんことを!

 

 

 

憲法改正すれば日本及び日本人が突如生まれ変わるという誇大妄想 蝶人