荻上直子監督の「トイレット」を見て
闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.523
海外の先進国へ行って有名なホテルに泊まっても、本邦の多くの家庭で具備されるにいたったウオシュレット付きのトイレを備えているところは少ない。
欧米人は米穀を食さないために便が乾燥しており、肛門を温水で洗浄する必要がないというもっともらしい説明を聞いたことがあるし、環境問題のキモは要らざるハイテク機能で無駄な電力をむさぼり喰らうこの最新版便器を撲滅することなりとする尖鋭的学者のご託宣を耳にしたこともあるが、やはり一度使ってしまうと病みつきになるのがこの文明の利器である。
しかしこの映画に登場する唯一の日本人「ばあちゃん」役のもたいまさこがこのタイプのトイレを好みながらそれを試すことなく他界すること、またTOTOがこの映画に協賛していることを除けば、この奇妙なタイトルはかの小津安次郎の映画文法を思わせるこの素晴らしい映画の本質にはまったく関係が無い。
もたいの「ばあちゃん」と彼女の3人の外国人の孫を巡る静謐かつ不可思議な家族の魂の交流の物語は、観る者をひとしく深く感動させるであろう。
「こんにちは」坂道行き交う人々がみな挨拶するという尾道へ行きたし 蝶人