蝶人戯画録

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神奈川近代美術館鎌倉で「松田正平展」をみて

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茫洋物見遊山記第135回&鎌倉ちょっと不思議な物語第292回

 

「陽だまりの色とかたち」と副題されたこの展覧会は、山口県の宇部をベースに活躍し、つい最近亡くなった油彩の作家の個展である。

 

もうしばらくすればこの風光明媚な名美術館も無くなりそうだし、地主の鶴岡八幡宮はなんと芸術に理解の無い愚劣な神社かと呪いつつ足を運んだ本展であったが、なかなか好ましい作品が並んでいた。

 

 芸大を出た松田選手は若き日に巴里に遊学し作家生活を開始するのだが、初期の作風は写実主義の生真面目な世間に良くあるタイプで、このままなら恐らく世に出ることはなかたに違いない。しかしキャンバスの上の色彩と形象と格闘している間に、彼はいつのまにやら簡素な造形と軽快な色彩を駆使した独自の「具象的抽象画」の世界を確立して行く。

 

こうなったらしめたもので、彼が山を描こうが海を描こうが女を描こうが四国犬を描こうが、その確立されたフォーマットの元でなんでもかんでも描くことが出来るようになるのである。

 

まっことスタイルこそは作家のアルファでありオメガなのであるが、そのスタイルを年々再々更新するピカソのような勇気も持ってほしかったと望むのは、やはりないものねだりなのだろうか。

 

同じ日に近くの神奈川近代美術館鎌倉別館で「野中ゆり展」をみたが、アルチュール・ランボーを題材にした一連のコラージュが面白かった。

 

◎なお両展とも来たる9月1日まで該当館にて寂しく開催中。

 

 

鎌倉の「野中ゆり展」でみた「デカルコマニー」シュルレアリスムお得意の転写画なるとよ 蝶人