蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

周防正行監督の「ファンシイダンス」を観て

kawaiimuku2013-01-11



闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.378&♪音楽千夜一夜 第293回


もちろん先ずは岡野玲子の原作があったにせよ、まずはお寺に目をつけた監督の創見に拍手。すでに「雁の寺」という傑作はあったけれども、古刹にうごめく坊主どもがいったいどういう思いで何をやっているのかという視点をば、現代の若者の生態とかかわらせて切り込んだのは大手柄。相撲といい社交ダンスといい、痴漢冤罪事件といい、この監督は新しい映画的題材の発見にかんして異常な才能を持っていて、ほとんどそれが作品の価値を決めているのである。

製作は1989年ということで、当時のインディーズ・ミュージックやパッドがごつい鈴木保奈美のジャケットなどが妙に懐かしい。この映画でモックンが師事する頭を剃り上げた甲田益也子が尼僧役で出演しているが、当時木村達司 と組んだdip in the pool(ディップ・イン・ザ・プール)というミニマルミュージック・ユニットを結成していた。

80年代のそんなある夜、お洒落ではあるが非常に退屈なそのライヴを聴きながら眠っていたら、観客の一人が珍しくブウを吹いた。すると「夕鶴」のつうのようによわよわしい声音で囁くように歌っていた甲田益也子が、少しもたじろぐことなく、「私たちにはこんな音楽しか出来ないんです」と落ち着いて言い放ったので、一瞬ざわめいていた場内が静まり返ったことをはしなくも思い出した。


最新型のゴジラが突如現れて悪者どもをみな踏み潰すらむ 蝶人