蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

東京国立近代美術館の「美術にぶるっ!」展をみて 前篇

kawaiimuku2013-01-12



茫洋物見遊山記第99回

冬の晴れた朝、開館60周年を記念する日本近代美術の100年展を見物してきました。
第1部のコレクションスペシャルは壮観です。萬鉄五郎の「裸婦美人」の黒い腋毛、村山槐多の死霊のような「バラと少女」ハイパーレアルな岸田劉生の「切通之写生」いつも平安な梅原龍三郎の「北京秋天」などをおおよしよし、元気にしてるかという感じで見て回りましたが、藤田嗣治の「アッツ島玉砕」と「サイパン島同胞臣節を全うす」だけは相変わらず別格の光芒に輝いていました。

宮本三郎の「山下、パーシバル両司令官会見図」などは実に下らない大政翼賛の戦争画ですが、この2作品だけは超絶的な存在感で心に迫って来るのです。確かにスタイルとしては戦争画の範疇に入るんでしょうが、けっして当時の国や軍の政策に媚びてはいない。これはなにか神聖にして侵すべからざるものが宿っている作品なのです。

戦争の悲惨さ、人間存在の空恐ろしさを最も根源的な境地で命懸けで描いている真の芸術家のほんたうの仕事が分からない人は阿呆だ。この彼の最高傑作を「大東亜戦争の翼賛」などと誹謗中傷した馬鹿な日本人に絶望した藤田がパリに去った気持ちが、痛いほど分かります。サイパン島玉砕の絵の前で合掌し一礼しながら去るひとを今日も見ましたが、私もいつも滂沱の涙で画面がにじむのです。(続く)

なお本展は14日月曜まで開催中です。


市長すら体罰容認の町なれば生徒を殺す教師も出るべし 蝶人