蝶人戯画録

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丸山健二著「白鯨物語」を読んで

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照る日曇る日第652回 

 

ハーマン・メルヴィルの大著を、著者が自由自在に超訳リライトしたもの。太平洋狭しと暴れ回るかのモビー・デイックとエイハブ船長の骨肉の戦いに要点を絞ってクイクイと読み終えたいなら、文庫本で3冊にも及ぶあの鯨という主題による巨大幻想物語についていけない普通の読者にとっては、こちらのほうがよほど要を得て簡だろう。

 

もはや商売も船員の生命もうっちゃって天敵憎しとの白鯨退治に邁進するエイハブ船長の狂気には、ハナからついていけない私だが、彼の目に映る「白い悪魔」はむしろ大自然の背後にいます大いなる神であり、その神意にさからうエイハブこそ悪魔と見えてくる。

 

人間の中に巣くった悪魔が神に対して最後の戦いを挑むが、やはり一敗地に、いな海にまみれてしまうというような。

 

丸山氏も、「この惑星の生き物は2種類である。気高くして神々しい、偉大な存在としての「鯨」と、それ以外である。そして人間は、それら以下である」とかっこよく断定されており、私もあえて異を唱えるつもりはない。

 

しかし、しかし、本書を読み終えてつらつら物想いにふけっていると、無手勝流の絶望的な戦いに挑む人類代表のエイハブ船長による9回裏の逆転サヨナラ満塁ホームランというシナリオによる新超訳ヴァージョンもあるのではないか、という気がちょっとしてきたのであった。

 

 

なにゆえに「イイネ」だけを作ったのか早く「ヨクナイネ」を作れ 蝶人