蝶人戯画録

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サム・ペキンパー監督の「砂漠の流れ者/ケーブル・ホーグのバラード」をみて

 

 

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bowyow cine-archives vol.647

 

 

原題は「ケーブル・ホーグのバラード」で砂漠の流れ者ケーブル・ホーグをジェイソン・ロバーズがしたたかに演じている。

 

ルンペンプロレタリアートのケーブル・ホーグは、悪者に水を奪われ砂漠に置き去りにされるが九死に一生を得て、どん底から這い上がろうとするのだが、水の出る土地の保証書1枚しかない彼に、無償で一〇〇ドルを貸し与えた銀行家は偉い。

 

だからこの映画は、腐敗堕落の極に達した現代のバンカーたちにペキンパーがその理想の姿を指し示した映画であるともいえるだろう。

 

それ以上に興味深いのは、復讐だけが支えとなるはずであったはずの彼の人世に、思いがけず舞いこんで来た娼婦との純愛の暮らしであって、これによって大いなる生命の泉を汲んだケーブル・ホーグは、1人の仇敵を許しただけではなく、不慮の事故によって世を去る間際に人間の生の真実を知り、諸行無常、則天去私の境地にまで到達するのである。

 

波乱に満ちた生涯を閉じたケーブル・ホーグの霊に寄せるペキンパーの視線は限りなくあたたかく、あたかも彼自身の生とそれとを二重写しにしているようですらあって、稀代の名監督がこの1作をもっとも愛したのはまことむべなるかな、と思わせる不思議に人懐かしき映画である。

 

 

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