蝶人戯画録

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マーク・ハーマン監督の「ブラス!」をみて

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bowyow cine-archives vol.703

 

 石炭産業がエネルギ転換で下火になって英国の炭鉱が次々に閉山されてゆく時代背景のもとであるブラスバンド楽団の孤独で悲槍でけなげな戦いを描いている。

 

 「たとえ母体の炭鉱が閉鎖されても音楽は不滅で不朽である」、と信じるリーダーが手塩にかけた楽団が、どういう風の吹き回しか見事大会で優勝するのは、それが映画の中での話とはいえにわかには信じがたい。

 

 けれども彼がロイヤルアルバートホールで、支配者階級へのうらみつらみを訴えるスピーチを聞きながら、私は1950年代の英国の怒れる若者たちの内攻やアラン・シリトーの「長距離走者の孤独」や「土曜の夜と日曜の朝」を思い出して、妙に懐かしい気持ちになった。

 

 この病気で死にかけている頑固一徹の老人は、命がけで「異議申し立て」をしていたのである。

 

 この映画では炭鉱労働者が、炭鉱閉鎖に8割の票を投じるが、まだ労働運動が2割は残存している。しかし平成後期に突入した安倍帝国では、ほとんど「労働者」も「労働運動」も壊滅しているのではないだろうか。

 

 

 僕らオクラ食べても食べても五つ星オクラらはいまはまからむ子泣くらむ 蝶人