健ちゃん蝶に乗る~「これでも詩かよ」第111番
ある晴れた日に第272回
まだ春だというのに、夏型の大きなヒョウモンチョウが、原っぱをゆらゆら漂っている。この品種らしからぬ緩慢な動きだ。しかも巨大なヒョウモンの翅の上に別の種類の小型のヒョウモンチョウが乗っている。
私がなんなくその2匹のヒョウモンチョウを両手でつかまえ、これはもしかして2つとも本邦初の新種ではないかと胸を躍らせていると、半ズボン姿の健君も別の個体を捕まえて、うれしそうに私に見せにきた。
それは確かにヒョウモンチョウの仲間には違いないが、いままでに見たこともない黄金色に輝いており、国蝶のオオムラサキを遥かに凌駕するほどの大きさに、興奮はいやがうえにも高まるのだった。
私たちはバタバタと翅を動かしてあばれる巨大な蝶を、懸命に両手で押さえつけていたのだが、それはみるみるうちにさらに大きな昆虫へと成長したので、もはや彼らを解放してやるほかはなかった。
しかし巨大蝶は逃げようとせず、その長い触角をゆらゆらと動かし、「さあ私のこの柔らかな胴体の上にまたがってみよ」、とでも言うように、その黒い瞳で私たち親子をじっと見詰めたので、まず半ズボン姿の健ちゃんがひらりと巨大蝶の巨大な胴体の上にまたがった。
息子に負けじと私も別の巨大蝶にまたがり、
そのずんぐりとした黒い胴体をつかんでみると、
あにはからんやそれはくろがねのような強度を持っていた。
私たちがそれぞれの大きなヒョウモンチョウに騎乗したことを確かめると、2匹の巨大な蝶はゆっくりと西本町の子供広場から離陸して狭い盆地を一周し、上空からは懐かしい故郷の街や家や寺や山、銀色の鱗に輝く由良川の流れがのぞまれた。
それから巨大な蝶は、猛烈なスピードで故郷の街を遠ざかり、
波が逆巻く海をわたり、大空の高みを力強く飛翔しながら成層圏に達し、
そこからまた猛烈なスピードで下降した。
ぐんぐん地表がちかづいたので、よく見ると、
それは教科書の写真で見たことのある万里の長城だった。気がつくと巨大蝶の姿は消え、 私たち二人だけが大空の真ん中にぽっかりうかんでいる。
私たちは思わず手と手を握り合った。
しかし墜落はしない。
無事に飛行は続いている。
私たちはそのまま元来た空路をたどって故郷に帰還すると、そこには仲間の巨大蝶が勢ぞろいしていた。その後蝶たちは、住民の飛行機としての役目を半年間にわたってつとめたのちに、南に帰っていった。
エイエイオウ!民衆の敵を打ち果たさむ12月14日は討ち入りの日 蝶人