蝶人戯画録

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ジャン=リュック・ゴダール監督の3D最新作「さらば、愛の言葉よ」をみて

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bowyow cine-archives vol.741

 

 ジャン=リュック・ゴダール監督の3D最新作「Adieu au Langage 」の試写をみて驚いたのは、彼の衰えを知らない映画表現の若々しさ、というよりもパンキッシュな過激さで、それは最新技術の3Dを活用したことによってますます拍車がかかっていることでした。

 

 意表をつく言葉と斬新な映像と大胆な音声音楽が三位一体となって、観客を驚きと混乱の極に陥らせ、おのれとおのれを取り巻く世界についての新しい光を投げかけるこの監督お得意の手法は、もはや定番といってもさしつかえないほどゆるぎなく確立された行き方です。

 

 しかし今回は、それがさらに余裕と遊びを持ち、映画という古典的な領域を大きく逸脱した重層的で知的な映像ゲームのような錯覚を覚えるほどで、ここには83歳になった映像革命家がついに達成した軽妙にして深淵な芸術世界が繰り広げられているようです。

 

 もとより映画ですからいつものように思わせぶりな男女が登場して、愛したり憎み合ったり、黒い陰部を露出したり、監督の同志ミエヴィルの愛犬ロクシーなどが人間のお株を奪うような名演をみせたりするのですが、それもこれも稀代の名監督の掌中に踊る大道具、小道具以上の意味をもつものではありません。

 

 こういう映画を前にすると、世界中の偉い評論家が「言葉よさらば」という題名や無慮無数に引用された箴言にまつわる意味や解釈を寄ってたかってああだこうだと論じるわけですが、私に言わせればそれは阿呆なインテリゲンチャンの愚かな所業。

 

 現代絵画の前に立った時と同様に、いたずらな意味の詮索を放棄してあなたの全感性を開放し、映像と音響の大洪水に全身を委ね法悦の境地に至ることこそ、この映画の唯一無二の鑑賞法だと思うのです。

 

 それにしてもベートーヴェンの第7交響曲第2楽章の「不滅のアレグレット」に伴われて突如インサートされる森の若葉や紅葉の綺麗なことよ! いろいろカッコつけているけれど、結局ゴダールが見せたかったのは、四季を彩る自然のこの刹那の美しさなのかもしれません。

 

なお本作は来年1月に公開されるそうです。

 

 

へいゴダール! ミエヴィルちゃんの愛犬ロクシーより我が家のムクのほうが役者が一枚上だったよ 蝶人