蝶人戯画録

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永田和宏編著「現代秀歌」を読んで

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照る日曇る日第745回 

 

 

 同じ岩波新書から先年出された「近代秀歌」の続編が登場しました。

 

 ここでは主として塚本、岡井、寺山などによる前衛短歌運動以降の100名の歌人の代表作を取り上げ、短い解説を加えながら現代版の「百人一首」を編もうとしているようです。

 

 もちろん前衛短歌運動を推進した御三家の名は知っていますが、私はつい最近短歌の世界をのぞきはじめたばかりの初心者なので、遅まきながら本書で、たとえば阿木津英、秋葉四郎、池田はるみ、石川不二子、岩田正、梅内美華子、大島史洋、大西民子、大野誠夫、沖ななも、小野茂樹、香川ヒサ、葛原妙子、山田あきなどという歌人の名前と作品に初めて接することができたのは望外の喜びでした。

 

 未知の歌人の未知の歌で印象に残ったのは、

 

この世より滅びてゆかむ蜩が最後の<かな>を鳴くときあらむ 柏崎驍二

 

ひまはりのアンダルシアはとほけれどとほけれどアンダルシアのひまはり 永井陽子

 

涙拭ひて逆襲し来る敵兵は髪長き廣西學生軍なりき 渡辺直己

 

 改めて衝撃を受けたのは、

 

 ひきよせて寄り添ふごとく刺ししかば聲も立てなくくづをれて伏す 宮柊二

 

 手をのべてあなたとあなたに触れたきに息が足りないこの世の息が 河野裕子

 

 などでしたが、こういう歌に接すると、「虚構論争」とやらに蛸壺の底でうつつを抜かす現今の短歌界なぞ犬にでも食われよという気持ちになってきますね。

 

 

  『藝術と実生活』を周回遅れで蒸し返す短歌蛸壺「虚構論争」 蝶人