蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

西暦2014年蝶人花鳥風月狂歌三昧歳末蔵出しセール

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ある晴れた日に第274回

 

一目見て蝶の名当てる特技あれど役には立たずこの半世紀

 

さらば地球『百年の孤独』遺してマルケス逝きぬ

 

産まれ落ち飛んで恋して卵産み一週間で死んでゆく蝶

 

羽生三冠の右手はわずかに震えたり名人位への軌跡を読み切り

 

飛車を打つ羽生の右手は震えたり名人位奪還の道を見据えて

 

明るさは滅びの姿か太宰治君思いつつ銀座歩めり

 

俳句からこぼれてしまうあれこれをぜんぶ短歌に盛ろうと思う

 

わが庵を雷のごとく揺るがしつ隣の町の冬の花火

 

ルリシジミ狂気の如く輪舞して平成の乱俄かに起こるか

 

耕君がホームで歌いし「故郷の空」も一度歌え我らと共に

 

また一歩祖父が夢見しニッポンに近づいてきたとほくそ笑む孫

 

今日ひと日事故に遭わず病気せず無事に終われり過ぎ去りし日よ

 

同盟を解体するんだ不如帰 嗚呼血を吐くように歌っている

 

冬の朝冷たき風が吹く道を素足剥き出し女子高生が行く

 

これが嫌だと言えないゆえにとりあえず嫌な事例を高々と叫ぶ

 

悪者が生態系を侵すという保守する側の正義はいずこに

 

極東の平和と安全を守るとて自らがその脅威となりゆく

 

偉そうにファッション広告など論じてる丹波の下駄屋の三代目われ

 

面接とぶつかるがゆえに試験日を変えてほしいと訴える学生

 

侵略的外来種なれど画眉鳥はピース来いピース来いと悪びれず鳴く

 

雑草にたっぷり除草剤をかけている積もる恨みを晴らすが如く

 

くわくわと大口開けて電車で寝てる「平和ボケの国」でいいじゃないか

 

ゆっくりと実線に近くなっていくこの世とあの世をつなぐ破線が

 

ホームズとポアロと小五郎呼び集めSTAP細胞の謎解き明かせ

 

四面楚歌満身創痍のリケジョなれどSTAP細胞実在するかも

 

黒白は明智小五郎に委ねたしSTAP細胞あるのかないのか

 

汁一滴余すところなく飲み干せと命じたり屋台の名物ラーメン親父

 

汁一滴余すところなく飲んでるかラーメン親父のガチンコ勝負

 

昔ならたった一発で仕留めたのに何回叩いてもすり抜けてゆく蚊

 

「あなたはね今がいちばん若いのよ」妻は私を理屈論理で励ます

 

勝手にしろ凶器のごときその一言で妻は地獄へ追いやられたり

 

一代の風雲児が興せし病院の末端の医師の診察受けたり

 

世をはばかるスキャンダルに塗れし大病院医師も看護師も黙々と働く

 

空前の不祥事に揺れし病院のナースは子供に笑いかけたり

 

あああの人も死んだかと思うそのように我の訃報も聞かれるのだろう

 

酔狂の余り大川に部厚き財布を投げ入れし青年の心の闇は誰にも知れぬ

 

酔狂の余り大川に投げ入れし君の財布はいずこへ消えしか

 

突如発作が起きて失神す彼女が死んだら私はどうなる

 

ただひとりワアワアと泣く少女他のみんなは笑っているのに

 

コラボとは仏語で対ナチ協力者の謂いであるコラボコラボと気安く呼ぶな

 

今日からは相棒のために戦えるたとえそれがどんな相棒であろうと

 

この街で呑み放題詠み放題で暮らしてた生き放題死に放題の男方代

 

砲弾に右目とられし山崎方代生き邦題に生きて死にたり

 

浪の下に都のあるを信じつつ安徳帝は沈みゆきたり

 

突然のキスより始まりしプロジェクトなんとかフィニッシュまで持ち込めればいいんだが

 

庭も木も家も残らず失せにけり鎌倉雪の下吉田秀和

 

たった二メートル掘れば出てくるのです鎌倉時代の井戸柱瓦

 

なにほどの意義あらんかと思いつつ「特定秘密法案」パブリックコメントを出す

 

駅前のタクシーで「西本町のてらこ」と言えば五分で着くだろう故郷の我が家

 

タクシー運転手は黙して我を運びたり元「西本町」の元「てらこ履物店」

 

五〇回投げ抜きし両投手称えつつ二〇一四年の夏は終われり

 

ミンミンにニイニイ油ツクツクも鳴いている芭蕉が聞いたのはどれじゃろ

 

大木家の大きな栗の木の下で道行く人はみな栗拾う

 

二階家の南の部屋の端っこが毎晩私が夢見るところ

 

人死には是非におよばず人を呼ぶ

 

雲が湧く野辺にはひばり見えぬまま

 

百年の孤独の果てにマルケス

 

明るさは滅びに似るや桜桃忌

 

青大将道行く時の長さかな

 

土方らは大工らは小便せずに夕べまで

 

蝉声果つ余命七日を生き抜きて

 

死に処思いつつ鳴く油蝉

 

五〇回投げ抜きし二人夏終わる

 

主なき吉田秀和邸に蝉時雨

 

小学生半袖シャツで十月侭

 

落ちる栗拾うにまかす大家かな

 

落栗を拾いて栗飯食べにけり

 

これあればほかには要らずキノコ飯

 

今日よりは相棒の敵もわが敵か

 

イデオロギーの違いで袂分かちけり

 

英霊と呼ばれし人の怒りかな

 

誠実は愚鈍に似たり寒椿

 

   

   雲上の見知らぬひとが成人を迎えましたとテレビ報じぬ 蝶人