蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

椎名誠著「ぼくは眠れない」を読んで

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照る日曇る日第751回

 

 

 そういう名前の小説と思っていたら、なんのことはない著者の実際の体験を告白録だった。作家になってから夜中に頭が冴えて眠れなくなり、酒を呑んだらかえって覚醒するようになったので睡眠剤のお世話になっているという話だった。

 

 私はそういう不眠症にかかったことはないので、売れっこ作家も大変だなあと思ったが、そんなおのれの不幸をネタにして新たな本を書くというか、書かされるのも因業な話だなと、それにはさして同情できなかった。

 

 本書の中でちょっと夢や睡眠着について触れた個所があったが、そもそも睡眠について興味を覚えたのは、友人の前田さんがかつて勤務していた枕メーカーが睡眠に関する研究をしていて睡眠着に関するシンポジウムに出席してからだった。

 

 人は誰でも夜中に猛烈に暴れまわっていることをビデオで見せられ驚いたが、朝になると寝る前と同じ姿勢に戻っているので、当の本人も覚えていないのである。

 

 人生の1/3は布団やベッドの中で過ごすにもかかわらず、その睡眠環境の快適さの研究はほとんどなされていないことがよく分かり、なるほどこの未開拓の領域を科学することは新たな真理と新たな製品を生み出すだろうと思ったことだった。

 

 私が自分の見た夢を記録するようになったのは、仏詩人ネルヴァルや明恵上人の「夢記」の影響が大きいが、その大元はこの時の「睡眠シンポジウム」だった。

 

 夢が第2の人生であることは、毎夜の夢を自分で記録してみればよく分かる。そこには白昼の自分とは似ても似つかぬ、制御不能のとんでもない自分が、闇の中に跳梁しているのであるが、その見知らぬ自分を含めての自分が、豊かに拡張された新たな自分なのである。

 

リモコンで切り替えても切り替えても出てくる存在自体が不愉快なあの醜い顔 蝶人