蝶人戯画録

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半蔵門の国立劇場で「南総里見八犬伝」をみて

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茫洋物見遊山記第166回 

 

 

 曲亭馬琴の有名な大河浪漫大小説を渥美清太郎がうまく脚色して尾上菊五郎が監修した本作は人情噺よりも立ち回りと荒事、そして要所要所でのと大仕掛けの場面転換が眼にも鮮やかな正月らしいエキサイティングな通し狂言でした。

 

 発端の里見家の息女、伏姫と迷犬八房の絡みからして規模雄大な舞台が幕を切って落とされますが、序幕本郷円塚山における犬山道節(尾上菊五郎)の火遁の術による華やかな登場、2幕目足利成氏館芳流閣上の犬塚信乃(尾上菊之助)と犬飼現八(尾上松緑)との息もつかせぬ大格闘が最大の見どころです。

 

 特に感動したのは回り舞台を回転する天守閣から信乃に蹴落とされた捕り手の面々が、バック転しながら舞台暗渠に落下したあと、その姿が3階席の私たちから見られないように黒布を前身に纏いながらゆるゆると姿を消していくことで、そんな隠れた細部にまで神経を遣っている役者魂にいたく感嘆させられたことでした。

 

 大詰の扇谷定正居城における善悪両党の一大決戦における鳴りもの光りもの大爆発は目が眩むほど華やかなものですが、もしかするとこういう勇壮無比な大スペクタクルこそ本来の歌舞伎の姿なのかもしれません。

 

 細部で瑕瑾無きにしもあらずながら、全体としてのお芝居の楽しさと勢いと鮮度は抜群でとりわけ美術部門、大道具、小道具の充実と健闘に拍手を贈りたいと思います。 

 

 なお本公演は来る27日まで。

 

  なにゆえに松竹歌舞伎座に行かないか阿呆莫迦再建計画には反対だった 蝶人