蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

ラデュ・ミヘイレアニュ監督の「約束の旅路」をみて

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bowyow cine-archives vol.759

 

 

 エチオピア難民の少年がユダヤ人と偽ってイスラエルに迎え入れられ、いわれなき差別とおのれのアイデンテティの確立に苦悩しながら、たくましく成長していく魂のビルダングスロマンです。

 

 なんだまたお馴染みのユダヤ人苛め物語か、といささか鼻白みましたが、だんだん引き込まれてとうとう2時間半も見物してしまいました。

 

 主人公が母親の愛情、米国とモサドの脱エチオピアエクソダス作戦に後押しされる形でイスラエルに潜り込んだものの、そこでも黒人ゆえのいじめや差別に遭うあたりの描写は新鮮ですし、国際政治に翻弄されながらもしたたかに生き延びようとする青年を、側面から擁護する寛容な人々の精神のありようがしっかり描かれていました。

 

 ただラストの母親との奇跡的な再会シーンは不要なり。また原題の「VA, VIS ET DEVIENS」という韻を踏んだよいタイトルを、「約束の旅路」などという凡庸な日本語に「翻訳」する配給会社のセンスを疑うのです。

 

 

   銀行とは阿漕な商売なり客を並ばせ金を預かる 蝶人