蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

西暦2015年如月蝶人花鳥風月狂歌三昧

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ある晴れた日に第288回

 

 

障がいのある息子と並んで剃られている土曜の朝の小林理髪店

 

担当者はどんどん変わるが君だけは同じ所に立っていた40歳の障がい者

 

家中の窓に垂らしたカーテンは白き秘密を外に漏らさず

 

腹違いの従兄妹の娘がやって来て御機嫌ようと挨拶するなり

 

「温かき心は挨拶から」と書いてある標札にして掲げるはいかがなものか

 

金魚を滑川に放つ人がいる止せといおうとしたがそれも一興

 

またしてもモンゴルの怪物現れて日本の土俵を席巻せんとす

 

朝な夕な立ちんぼうにて仕事する販売業はつらきものかな

 

恐らくは一万円ちょっと入っていただろうどこへ消えたか私の財布

 

いぎたなく美食飽食し尽くして猪八戒になりし人々 

 

八犬伝」をものした馬琴は偉いけど崋山を裏切る馬琴は卑劣漢 

 

「モーレツからビューティフル」のコピーを書きし人の死を告げていた美しい筆跡

 

網走も京大阪も東京も日本もアジアの番外地なり

 

中国を憎むは容易く愛するは難ししばらくは黙って眺めていよう

 

 

20年をボランティアに捧げて全身ガンで73歳で果つ

 

私の代わりにトイレに行ってくれる小便小僧どこかにいないか

 

寝た切りの老人の用を足す小便小僧どこかにいないか

 

眼を瞑れば此岸から彼岸へ一っ跳び眼を見開けばこれまた此岸

 

堪えに堪え我慢に我慢の健さんがにっくき彼奴らに天誅下せり

 

死ぬ前の年にヘッツエルがコンマスで弾きしモーツアルトを聴く

 

新聞屋は親切な商売なり朝晩届けて集金に来る

 

もはや収入はどこからもやってこないかつがつの年金を大事に使おう

 

私には「ご主人様」妻には「奥様」と礼儀正しきミサワホーミングの桑名君

 

窓なども極力小さく拵えて敵に備える要塞のごとし

 

幻想の共同体の暗がりでシームレスのストッキングの猪八戒が蠢く

 

説明なんか要らないお前のやっていることをすぐに止めよと言っているんだ

 

国防婦人会のやうなオバハンが現れて国賊だの非国民だのと決めつけている

 

 

 

6000の中から選ばれし10句ゆえどこがいいのかつらつら鑑賞 蝶人