蝶人戯画録

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T・E・ロレンス著「完全版知恵の七柱第2巻」を読んで

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照る日曇る日第764回

 

 ご存知「アラビアのロレンス」の熱砂の実録大冒険の第2弾なりい。本巻では有名なデビッド・リーンの映画のクライマックス、アカバへの奇跡の大進撃のくだりが叙述されているが、実際はあんなかっこいいものではなかったようだ。

 

 対トルコ戦争のまっただなかに飛んで火にいる夏の虫のごとく舞い込んだ我らが主人公は、蠍に刺されて体調不良に陥ったり、テントに忍び込む毒蛇を1晩に20匹も殺したり、敵対するアラブの指導者たちの肩を揉んだり、トルコ軍の鉄道を自分で地雷に信管を取つけて爆破したり、砂漠に迷ったのろまな従者を命懸けで救助したり、朋輩を殺した従者を泣く泣く拳銃で射殺したり、飢えや乾きに苦しみながら、それこそ獅子奮迅の大活躍を続ける。

 

 そんな言語に絶する地を這うような労苦を舐めながらも、どことなく楽しそうな様子が筆致に漂うのは、彼がほんとうにアラブの人々が大好きであり、そのことが彼らに本能的に伝わって愛されたからだろう。

 

 蠍と蛇と異教徒たちに囲まれ、彼我の戦闘状況を子細に分析するロレンス。砂嵐吹きすさぶテントの中で、古代から近現代の戦争史家の哲学を研究しながらアカバ攻略の戦略を練るロレンスは、生きる喜びに酔いしれていたに違いない。

 

 

アカバへ!アカバへ!半月刀振りかざし熱砂を駈けしアラビアのロレンス 蝶人