蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

又吉直樹著「火花」を読んで

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照る日曇る日第773回

 

 

サザエさん 

最初ちょっと堅苦しい文体に戸惑ってなんども読みなおしたりするけれど、どんどん物語の魅力に惹きつけられて最後まで夢中になって読みとおしてしまうわね。

 

マスオさん

最近の小説の多くが難しい漢字や堅苦しい表現を廃してスラスラ読みやすい文章にしている傾向があるけど、これはあえてその逆を行くようないわば硬派の正統的文体で、そこが却って新鮮だな。

 

丸谷才一

過剰なまでに知的であるが、かといってユーモアとウイットにも欠けてはいない。泣き喚く赤ちゃんを「尼さんの右目に止まる蠅2匹」なる偽川柳で笑わせようとするシーンは長く文芸史に残るだろう。

 

吉本隆明

日本文学の古典をよく研究咀嚼しているし、「太鼓の太鼓のお兄さん、真っ赤な帽子のお兄さん、龍よ目覚めよ、太鼓の音で」というフレーズにみられるような現代詩歌のセンスも半端ではない。

 

吉田健一 

 

著者が長く親しんでいる漫才師の師弟愛の世界を描いているわけだけど、漫才に生きる人々の人物像を繊細かつ精妙に描き出している。とりわけステージに立った時以外も朝から晩まで漫才をやっている仙人か哲学者のような主人公の師匠の造型が見事。

 

ドラえもん 

さてどうやって物語を終わらせるのかと心配していたら、見事なラストが出現して僕らに思いがけないカタルシスを贈ってくれましたあ。

 

小林秀雄

熱血純文学青年による傑作漫才小説なり。著者の文学と漫才への真摯な愛に不意打ちされてしまった。これなら特別芥川賞をくれてやらなきゃ。

 

 

   わが軍は吾輩のもの米帝が行けと言うなら地の果てまでも 蝶人