蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

今村昌平監督の映画3本をみて

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bowyow cine-archives vol.784&785&786

 

 

今村昌平監督の「にっぽん昆虫記」をみて

 

 今村昌平監督の大きな掌の上で1匹の昆虫と化した左幸子がいくたびも脱皮を繰り返して初めは処女の如く終りは脱兎の如く窯変して7つのヴェールの踊りを踊る。

 

 その左幸子の美しさ、逞しさ、原子心母性に圧倒されないひとはいないだろう。

 

シークエンスの転換に際してストップモーションにして左幸子が不器用な五七五七七を呟く趣向も面白いが、ラストで出演者が、演出の今村を除いて全員五十音順で一括してクレジットされるのには驚いた。悪平等民主主義、てか。

 

 

今村昌平監督の「神々の深き欲望」をみて

 

 気狂い監督の今村昌平が、沖山秀子、嵐寛十郎、三國連太郎などの気狂い俳優と南大東島でおまんた音頭を踊りながら撮った見事な神話映画。

 

 南の島で伝統と因習に縛られて生きる神ながらの土俗の民と、大都会から漂着する人との対峙を軸にして、神話的現代、現代的神話の物語が極彩色で濃厚に語られる。

 

 台風に直撃され濁流に押し流されながらの撮影も物凄い迫力だが、島から逃亡を図った三國と松井康子の兄妹をカヌーで追いかけ、奇妙な仮面をかぶって全員で櫂を振るう場面は総毛立つ。

 

 島の掟に従い、皆と一緒に仮面を被れば、息子も共同体の一員として父親を撲殺するに至るのである。

 

 

今村昌平監督の「赤い殺意」をみて

 

 にんげんの爬虫類の脳裏の奥深くに潜む男女の性的欲望、業の深さを、雪霏霏と降りしきる東北の地でしらじらと描きつくす今村昌平の力技に圧倒される。

 

 劇走する列車の中での男女の格闘長回しなどはほとんど命懸けの撮影であるが、いまどき誰がたかが映画のためにこんな危険を冒すだろうか。

 

 太股に蚕を這わせるシーンは「にっぽん昆虫記」のほうで使ってほしかったが、春川ますみが全存在をさらけ出しての熱演は見事。西村晃露口茂も好演。

 

 

「映画くらいは撮らせてやる」と言い放ちし監督のお手本はさすがに凄い 蝶人