蝶人戯画録

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アベマリア~短歌詩その2

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「辻征夫詩集」を読んで~照る日曇る日第779回~「これでも詩かよ」第138番

 

 

序歌

アベチャンはアベマリアに変身か これぞ驚天動地!これぞコペルニクス的転回! 蝶人

 

 

午後7時の記者会見で、我が国の宰相アベチャンが、いつの間にか別人にすり替わっていることを私たちに知らせたのは、ほかならぬ官房長官だった。

 

このきわめて有能な策士は、

「本日午後2時、総理大臣のアベシンゾウさんが他の誰かに取って代わられていることが判明しました。その背景等につきましてはただ今私の責任において粛々と調査中であります。真相が判明し次第発表いたしますので、国民の皆様におかれましては冷静に、軽挙妄動することなく、暫時お待ちください」

と云ってのけたのだ。

 

「軽挙妄動することなく暫時お待ちください」だって。

あのアベチャンが、誰かに乗っ取られたんだぜ。おラッチの大好きなアベチャンが。

誰が落ち着いて見物していられるかってんだ。

 

フナッシーやパンダには及ばずとも、全盛時代のヒトラーを凌ぐ国民の圧倒的支持を集めていた我らがアベチャンは、先月の国連総会で「我が国は本日ただ今、日米安保条約を破棄し、憲法を改定して非武装永世中立の共和国になります」と演説したのだ。

 

どうしても憲法を改定したい。どうしても日米安保を破棄したい。

アベチャンときたら大したもんだ。祖父にも父にも出来なかった天下の大業、回天の大事業を一夜にして成就してしまった。

 

これぞ驚天動地! これぞコペルニクス的転回!

1945年以来国民の多くが夢にまでみた本邦の真の独立と新時代への画期を高らかに宣言したアベチャンは、現行憲法を改正せよという声に真正面から応えたのみならず、

一躍国内のみらず世界をリードする大政治家として、かのケネディ大統領を上回る空前の人気を博していたのだ。

 

ところが彼が特別機で羽田に到着し、内外の記者に取り囲まれたときから妙な具合になった。

いつもならいかなる質問にも思いがけない文節でぶつ切りにする奇妙な日本語で流暢に答えていたのに、一言も発しないで胸に十字を切った。

靖国神社にしか行ったことのない熱烈な神道信者が、異教の神に祈りを捧げたようだった。

 

まるで猪八戒の能面をかぶった不審人物が、無言の行を続けているみたいだったが、思えばあの時すでにアベチャンは、見知らぬ誰かに乗っ取られていたのだ。

アベチャンは、なんとアベマリアに変身していたのだ。

 

聖母マリアよ! 罪多き我をどうか許したまえ。

 

間奏歌

アベチャンが急に後悔してabbéに懺悔してしおらしく神に祈るようになったからアベマリア 蝶人

 

 

もしかすると、有能ではあるが見るからに陰険そうな官房長官が、NYで突然心変わりをした宰相の大脳前頭葉にひそかに脱法ドラッグを注入して、別の人格に変えようとしたのかもしれない。

 

ともあれ、すべての国民、いな全世界の心ある人々は、アベチャンの回復を願っている。アベチャンが内なるアベマリアをやっつけて、本来の清く正しい共和主義者アベシンゾウに戻るように衷心から祈っているのだ。

 

 

終歌

アベチャンぐあんばれ! アベチャンぐあんばれ! 諸国の民草は、アベチャンを応援しているぞ 蝶人

 

 

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