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蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

高橋源一郎著「動物記」を読んで

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照る日曇る日第781回

 

 かのシートン選手の向こうを張るようにして、我らが源チャンが平成版「動物記」をあらわした。

 

 といっても別に「狼王ロボ」や「灰色グマ」がでてくる訳ではない。そのかわりに偏差値が50くらいの私立大学を卒業したパンダさんや、人類が滅亡した後に誕生した二葉亭四迷そっくりの柴犬のタツノスケ君や、或る朝目を覚ましたら人間になっていた元オオアリクイや元ピクーニャや元ヒトコブラクダなどが続々登場するのである。

 

 ふだん我われは、たかが極東アジアのちんけな島国人であることをすっかり忘れて欧米先進国人の仲間と思っているのと同様に、動物の一種であることを忘却し、なにか神聖にして侵すべからざる第3天使のごとき錯覚をしている訳だが、著者は種々様々な手練手管を駆使して、それらの幻想を小気味よく打ち破り、「人間動物一視同仁」、「山川草木悉皆成仏」風の視点から、新たな世紀末的悟達の路を切り開くのである。

 

 全部で9つの短編からなるアンソロジーであるが、最後に収められた「動物記」の極私的な発言に接して、思いもかけず激しく心を揺り動かされた。なお老婆心ながら、冒頭の「動物の謝肉祭」は著者としては珍しく出来が良くないので、パスして2番目の「家庭の事情」から読まれることをお勧めする。

 

 

  嗚呼遂に平成の猪八戒現われいで富国強兵国家を妄想するに至れり 蝶人