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蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

山本周五郎著「さぶ」を読んで

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照る日曇る日第785回

 

 2人の友人。2人の仲良し。栄二とさぶをめぐる因果の物語。

 

 自己中で他人を押しのけてでもおのれの意志、おのれの主義主張を他に及ぼそうとする栄二と、言いたいことも言えずに奥へ奥へと引っ込んでしまおうとするさぶ。

 

 傲慢と謙虚、大と小、陽と陰、積極と消極、派手と地味、前進と後退の違いを象徴するような2人であるが、物語は完全に栄二を中心に進行して終わるので、常識的には題名は「さぶ」ではなく「栄二」になるはずだが、なぜ作者はあえて「さぶ」としたのだろうか?

 

 この両者の対立や葛藤はじつは別の人格の中にではなく、私たち一人ひとりの内部のそれであると考えれば、よく腑に落ちるのかも知れない。

 

 しかし無実の罪で栄二が収容された石川島の人足寄場のほうが、実際の江戸社会のしゃばよりも暮らしやすかった、というのは本当だろうか。

 

  瑠璃タテハ黄タテハ紋白大和シジミ母の命日に見し蝶蝶  蝶人