蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

R.J.カトラー監督の「ファションが教えてくれること」をみて

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闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.843&ふぁっちょん幻論第94回

 

 

 2007年9月号の製作をめぐって激しく戦うアメリカヴォーグの編集長アナとクリエイティブ・ディレクターのグレース。

 

 この同じ年、同じ月、同じ英国生まれで同期入社の二人の熟女の熾烈な女のいくさが、彼らの人間性とともに激烈に描かれている。

 

 アナは作らない、あるいは作れない。グレースが作ったものに対していい、悪いをいうのだが、その判断基準は創造的価値とは無関係で、読者に受けそうか否かという商品的経営的観点のみ。

 

 アナとグレース、あるいはアナ的要素とグレース的要素は、あらゆる企業を駆動させる両輪だが、アナの冷酷な獣を思わせる非情な目を見ているとなんだか厭な気持になって、精魂こめて無から有を、有の中の優を創造した「芸術品」を不条理に突き返されるグレースの潤んだ瞳を見るに絶えなくなってくる。

 

 一身にしてアナとグレースを兼備しつつ前進するのがスマートなビジネスピープルなのだろうが、自分で新しいものを創造できない人を私は憎悪する。

 

 原題は「9月号」なのに、「ファションが教えてくれること」などともっともらしい邦題をつける配給会社やコピーライターも私は嫌いだ。

 

 

ふぁっちょんが教えてくれることそれは売れなければなにを言ってもだめだということ 蝶人