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蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

雑巾の歌~「これでも詩かよ」第145番

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渋谷ヒカリエで「I'm sorry please talk more slowly」展をみて

 

ある晴れた日に 第314回

 

寒い寒い冬の夜

目の前に雑巾を置いて、

そいつをじっくり眺めてみよう。

 

すると突然雑巾が、なにか、ぶつぶつ言い始める。

I'm sorry please talk more slowly

すると雑巾は、おのれについて、ゆるやかに語り始めるだろう。

 

「ホラホラ、これが俺の骨だ。これが俺の肉だ。

これが俺のはらわた。俺の脳髄。これが俺の肌の色。

これこそが俺の実在なんだ」

 

頭巾の奴は、次第に雑巾野郎としての本質を露わにしてくる。

雑巾は、雑巾としてのレエゾン・デートルを、

静かに、しかし、力強く主張しはじめる。

 

雑巾をじっと見つめると、それは美しい。

雑巾をじっと見つめると、それは侵しがたい。

雑巾をじっと見つめていると、それはひとつの宇宙だ。

 

雑巾は、もう誰にも「たかが雑巾」などとはいわせない。

なぜならそれは、吹けば呼ぶよな家政婦よりも、したたかに存在しているから。

いまや雑巾は、長らく人間どもに浸食された主権を、奪還しつつある。

 

寒い寒い冬の夜

キャンバスの前で画家に描かれている雑巾は、だんだん雑巾ではなくなってくる。

雑巾が、雑巾ではない何か、雑巾以上の何者か、になってくる。

 

画家は、それをありのままに、油絵で描いた。

すると雑巾は画家に感謝して、「健君ありがとう」と言ったので

画家は「どういたしまして」と答えてから、筆を置いた。

 

 

 

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