蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

夢の女~「これでも詩かよ」第151番

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ある晴れた日に 第320回

 

 

名古屋近鉄の電器売り場で、キャンバスを立ててスケッチを描き始まると、忽ち人だかりができた。私は「あら、これはダリよ」「これはゴッホよ」と持て囃す女たちとどんどんデートの約束を取りつけながら、売り場主任と大型テレビの商談を始め、どんどん値切っていった。

 

やがてA子とデートの約束をとりつけ、50インチの液晶テレビを40万円で買う商談が成立したところで、私はキャンバスをかたずけ、サインをしてから彼女と新幹線の駅に急いだ。

 

久しぶりに乗った満員電車の中で、私のまん前にいたのはA子ではなく、ブロンドの若い娘だった。どんどん混雑してくる電車の中で、彼女は恐らく意図的に私の身体の中心部に自分の下半身を擦りこむように身を寄せてくるので、私はもうどうにも我慢できなくなってしまった。

 

私に気がある外国人の女を、彼女の希望通りに階段の上でひんむいてやると、女は泣いて喜んでいた。するとそれを見た日本人の女が、「この女なんてザマなの」と罵ったので、私は彼女もひんむいてやった。

 

突然逃げ出した女の後を追って海に飛び込み、彼女の家は青の洞門の下にあったはずだとどんどん潜っていくと、岩で造られた部屋が2つあったので、左の方に進んでいくと彼女にそっくりの女性が私を手招きするので、そのまま抱擁してベッドで事に及ぼうとしたんだ。

 

ところが、やはり私のあそこはぐんにゃりとしたまんまで期待にこたえられず、「どうにもこうにも」と嘆いていると、いつの間にか別の女性がやって来て、「母と私を間違えるなんて」と怒り狂っているので、私はまたしても「どうにもこうにも」と呟くのみだった。

 

私はそんな自分にも、その傲慢な女のことでも頭に来ていたので、茶色い電車を両脇に抱えて国電に乗り込み、阪急梅田駅のプラットホームに投げ出すと、2回3回と大きくバウンドした電車は、うまく線路に乗っかった。

 

3時半から授業が始まるので校舎めざして野原を歩いて行くと、今度は若き日のオードリー・ヘプバーンにちょっと似た少女が私に頬笑みかけたので、挨拶を交わすうちに、なんだかえもいわれぬ懐かしさを覚えて、どんどん好きになってしまった。

 

近くのカフェに入ってどうということもない話をしていると、ヘプバーンが入って来た客を避けるような素振りをするので、「どうかしたの?」と尋ねたが、「別になんでもないの」と答えるばかりだ。

 

そのうちに時が速やかに流れたので、「僕は3時半から授業があるから、そろそろ行かなきゃ」と立ち上がると、ヘプバーンは「あら、この前と同じことをおっしゃるのね」と言うので、確かにこれと同じことが以前に起こったことを思い出した。

 

いつものように新宿にある学校へ行こうと家を出たが、その途中、法政大学の近所の商業施設の中で道が分からなくなってしまった。階段を息せき切って登り降りしているうちに時間がどんどん過ぎてゆく。ピザ屋のおやじに時間を聞いたら3時前という。それならもう授業は終わるころだ。

 

次の授業は3時半だから、これだけは出なければなんのために東京まで出てきたのか分からない。「僕は3時半から授業があるから、そろそろ行かなきゃ」と誰かに呟いた覚えは確かにあるのだが、それを聞いていたのはヘプバーンだったとは知らなんだ。

 

 

 

「インクを買うなら最新プリンターを買おう」というがインク代の儲けにあきたらずまたプリンターを買えというのかエプソン 蝶人