蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

されど観て良かった映画もあるずら

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闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.860,861,862,863

 

 

ロバート・ロッセン監督の「コルドラへの道」をみて

 

 ゲイリー・クーパーリタ・ヘイワースが共演している珍しい西部劇だが、バズ・クリーク監督の「戦うパンチョ・ビラ」を敵対する米軍側から見た映画でもあります。

 

 クーパーの役柄は一風変わっていて米軍の戦闘でみざましい武勲を挙げた兵隊を表彰するというのだが、せっかく推薦した連中がとても一筋縄でいかない奴らばっかり。

 

 おまけにクーパーも不名誉な前歴があるし、そこへ謎の女牧場主のリタ・ヘイワースが妖しくからんで、いったいどうなるんだろうとハラハラどきどきさせるが、最後は訳も分からず一大感動巨編となって終わるんだが、最近みて損したと思う映画が多い中で、これは珍しく心に残る一本でした。

 

 

○ジェリー・ザックス監督の「マイ・ルーム」をみて

 

 1996年製作のアメリカ映画で、原題は「マーヴィンの部屋」なり。いまだ若きロバート・デ・ニーロダイアン・キートンメリル・ストリープ、ディカプリオなどが競演している。

 

 病の老いたる両親の面倒をみている姉キートンと美容師になって自立することを夢見ている妹ストリープの確執と和解までをじっくりと描いて見ごたえがある。

 

 できれば滅私奉公の姉がさなきだに不治の白血病に罹ってしまうという難病ものの展開にしないで、介護負担の問題、人世における自己実現の問題に絞ったほうがより優れた映画になっただろう。

 

 

ジョン・ウー監督の「ウインドトーカーズ」をみて

 

 アメリカの勇猛な海兵隊員と米軍が新たに開発した暗号担当のナボホ族出身の新米部下との哀しい友愛を日本軍のサイパン玉砕の戦闘を舞台に描く2002年製作の戦争映画ずら。

 

レッドクリフ」「男たちの挽歌」の監督だけに激烈な戦闘シーンを夢中になって描いているが、一方の戦争の当事者である日本人の内面やドラマについては当然のことのように捨象されているのが見終わってとても気になる。

 

 いずれにせよこういう食うか食われるか、殺すか殺されるかという局面だけが戦争の実態であることを如実にレポートしているという点では、自公の戦争してもいいかも主義者のアホバカ政治家にもぜひ鑑賞してほしい作品である。

 

 いくら国家が第一だのカッコイイ主義主張で装っていても戦争に招き入れてしまえばもうおしまい。地獄の3丁目まで行くしかないのだから。

 

 

ピーター・ハイアムズ監督の「ハノーバー・ストリート」をみて

 

 ヴィヴィアン・リー主演の「哀愁」を踏まえた1979年公開のアメリカ映画。邦題では「哀愁の街角」という副題がその後に続く。その気持ちは分かるがこれは蛇足というものだろう。でも「哀愁のハノーバー・ストリート」としなかったのは偉い。

 

 まだ初々しいハリソン・フォードが人妻レスリー・アン・ダウンと運命的な恋におちて、最後は悲劇的な結末を迎える悲恋物であるが、全体的には演技も演出も物足らないなか、英国の作曲家ジョン・バリーのテーマ音楽には大いに感銘を受けた。

 

 かのジェーン・バーキンの最初の夫としても知られるこの人は「007シリーズ」や「冬のライオン」「真夜中のカーボーイ」「アウトオブ・アフリカ」などの映画音楽を作曲しているが、ここではあえて地味ではあるが、それが却って心に残るような、簡素でありながらも、繊細で陰影に富んだメロディを鳴らして、拙劣な映像表現をしっかりと支えているのである。

 

 

    宝塚清く正しく美しく地獄の季節も生き延びたのか 蝶人