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蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

谷崎潤一郎著「谷崎潤一郎全集第1巻」を読んで

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照る日曇る日第806回 

 

 わおお、本邦最高の作家の全集が右翼の読売新聞社に乗っ取られた哀れな中央公論新社から発売されましたぞえ。

 

 私はすでに昭和41年に出た第6回目の全集を持っているのだが、やっぱせっかく最新版が出たんだから、これから死に土産にせっせセッセと読んでこましたろ。

 

 第1巻はもちろん最初期の「刺青」を柱にしたセレクションで、その「刺青」や「少年」や「秘密」、「悪魔」など、彼のひきだしの奥の奥に大切にしまいこまれた女性への拝跪主義、マゾヒズムの魅惑が、検閲に気おくれすることもなく正々堂々と全面展開されているずら。

 

 世間で顰蹙を買いかねない己が性癖を、処女作から潔く開陳する未来の文豪の己への誠実さは、どうも後続の川端や三島にはなかったような気がする。

 

 マゾや耽美への陶酔はともかく、歴史に題材を取った「象」や「信西」、学生時代のやっさもっさをだらだら描いた「羹」(なんでこういう題名になったのかよく分からん)、明治45年に京都を始めて訪れた時の見聞を率直につづった「朱雀日記」、漱石の「門」を大胆不敵に論じた「門を評す」などなど、新人時代のどんな小品でも「さすが谷崎!」と大向こうから掛け声をかけたくなるような出来栄えで、いやあ、これからどんどん大成していけば物凄い作家になるだろうなあ、と思わせるに足る充実したコレクションなのであるんであるん。

 

 

   断言をすればするほど引いてゆく潮の流れを知らぬ宰相 蝶人