蝶人戯画録

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井上ひさし著「井上ひさし短編中編小説集成第12巻」を読んで

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照る日曇る日第822回

 

 シリーズの掉尾を飾るのは「言語小説集」と「東慶寺花だより」「イソップ株式会社」の3篇であるが、なかでは作者が晩年を過ごした鎌倉を舞台にした歴史物の「東慶寺花だより」が思いがけない贈りものか。

 

 江戸時代の縁切り寺として知られるこの尼寺とそのすぐそばのはたごを舞台に、次々に駆け込む女性を主人公とするあれやこれやのエピソードを連ねたものであるが、「イソップ株式会社」ともどもどことなく筆力の衰えのような気配が漂うのは、それらが作者の晩年近くの執筆によるものなのだろうか。

 

 岩波書店から刊行された短編中編小説をすべて読み終えての感想は、やはり作者の本領は小説よりも舞台にある、という月並みなもので、これから私はまだ残された時間があれば少しずつ彼の脚本を読み返してみたいと思っている。

 

 

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