蝶人戯画録

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「神奈川県立美術館鎌倉館&別館」にて最後の展覧会をみる

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茫洋物見遊山記第189回 &鎌倉ちょっと不思議な物語第356回

 

 

 鎌倉からはじまった。PART3を見物しました。もう何回もみた作品が並んでいてとても懐かしかったのですが、高村光太郎の「上高地風景」という油絵や、島崎藤村の息子、鶏二の「風景」、内田魯庵の息子内田巌の「少女像」、舟越保武の「萩原朔太郎像」などには、はじめてお目にかかりました。

 

 でも私の眼は、どうしても松本俊介の「自画像」や「立てる像」の修敏な暗さや佐伯祐三の色彩の輝き、古賀春江のモダンな「窓外の化粧」、暗欝な「サアカスの景」などの方へ走ってしまいます。

 

 ああ、天才はどうして若死にしてしまうんだろう。

 

 古賀選手最晩年の巨大な二枚は川端康成がこの美術館に寄贈したそうですが、当時こんな前衛的な作品をいち早く購入していた見識は只者ではありませんな。作者が死んだ年に描かれた絶筆の「サアカスの景」ではラクダが宙に飛ぼうとして飛べずにいるのが、まるで絵描き自身の進退窮まった姿のようです。

 

 今回はこれが最後ということで中三階にある別室に入ることが許されましたが、当館を建築した坂倉準三の手になる製図板、椅子、机なども置いてありました。

 

 あそうそう、彼はここの喫茶室も内部の造作もみな自分でやっていて、なかなか趣味が宜しい。空間を構成する手際に和的なインチメイトな感性をかんじます。

 

 三室を全部見終わってこれまで開催された展覧会のカタログなどをみていたら地震があった。しばらくガラスがミシミシ揺れてスタッフの女性が怯えていましたが、はしなくもここはまだ耐震対策を施していない建物であったことを思い出しました。

 

 本館の内部のあれやこれやをバチバチ写真に撮ってから別館へ行って「工芸と現代美術」展を駆け足で見物しましたが、魯山人イサム・ノグチがおいてあった。魯山人はどこか山師みたいなところがあってあまり好きではありませんが、大ぶりの陶器などは気宇壮大なところがあって気持ちが良い。

 

 ノグチが広島原爆慰霊碑のためにつくったマケット(雛型)があったが、米国人故に使用されなかったそうですが、実現されていたらすごい仕上がりになったことでしょう。

 

 この展覧会は来年1月31日までやっているので、最後の最後のお別れにもういちど来てもいいかなと思いつつ妻と後にしました。

 

 

  天才は若死にするが鈍才はしぶとく生きる悔やんで生きる 蝶人