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蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

国立劇場で「通し狂言伊勢音頭恋寝刃」の千穐楽をみて

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茫洋物見遊山記第190回

 

 

 久しぶりの歌舞伎を息子と一緒に半蔵門で鑑賞いたしました。

 

 演目は近松徳三の手になる「伊勢音頭恋寝刃」でこの劇場ではなんと53年振りの公演だそうです。

 

 寛政8年5月、伊勢国古市の遊女屋」油屋で地元の医者、孫福斎が仕出かした殺傷事件を題材にした狂言だそうですが、要するに名刀「青江下坂」を巡る争奪を横道また横道に逸れながら、延々と辿るのです。

 

 例によって登場人物のあれやこれやが私の粗放な脳髄には分かり難く、前半はかなり退屈したのですが、後半の大詰めにきて大復讐劇と大殺戮が巻き起こったので、ようやく頽勢を挽回して、意気揚々と4時間に亘る大公演の千穐楽を打ちあげることができました。

 

 名刀がじつは村雨のごとき妖刀であって、柄を握った主人公(中村梅玉)を誘導して次々に悪党共を斬ってゆくのを例のスローモーションでやるが最大の見どころで、この「青江下坂」が手元にあれば極悪非道の権力者に送り届けてやりたいと思ったことでした。

 

出演はほかに雁治郎、高麗蔵、東蔵などの中村一門で、光る役者は一人も居なかったずら。その後夜の銀座に出たら大通りに観光バスが止まっていて街は中国人の爆買一色。なんだかとても嫌な感じでした。

 

 息子の案内で資生堂ギャラリーにて小沢剛の「帰って来たペインターF」展を見ましたが、これは戦争中にインドネシアで従軍した架空の日本人画家「ペインターF」の戦前から戦後の生きざまを物語にして、絵画と映像作品に仕上げたもので、レオナルド藤田らしい画家が七幅の大画面に暗躍しています。史実とからめた作家のコンセプチャルな見立てが秀逸だったずら。

 

 次に小柳ギャラリーで開催中の内藤礼の個展を見たのだが、そこに並んでいたのはほとんどなにも描かれていない何枚もの白いキャンバス、そして雑誌の一ページを切り取ってしわくちゃにした人物写真だったので驚いた。

 

 こんなもののどこが作品であり芸術なのか。ただのゴミではないか。

 

 こんな人を莫迦にした羊頭狗肉に安からぬ値段がつけられ、それをこぞって買いあげたりしている異様な光景を目の当たりにして、私は頭に血が上り、我が腰にかの妖刀あればと歎シじざるをる得ない銀座の秋の夜だった。

 

 

 

 マカ不思議有名人物の名さえついてればただの紙切れが札束に化ける 蝶人