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蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

林望の「謹訳平家物語二」を読んで

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照る日曇る日第839回

 

 それにしても「平家にあらずんば人にあらず」とまで称された清盛専制独裁政治が、なぜあれほどガタガタと崩壊してしまったのだろうか? 

 

 直接の要因としては、継母池禅尼の命乞いに応じて清盛が、頼朝を生かしてしまったことだろうが、14歳から北条の保護観察下にあったその頼朝自身は、以来20年が過ぎても平家に反逆しようという野望は微塵も懐いてはいなかった。

 

 それを無理やり尻を叩いて決起させたのはかの有名な文覚上人で、このちょっと気狂いじみた素っ頓狂な活動家のオルグなかりせば、ついに源氏による鎌倉幕府の開府は永劫なかっただろう。

 

 そしてその遠因をなした後白河院の皇子、高倉宮の謀反の直接の契機も、もう一人の気狂い荒武者、源三位頼政によるアブノーマルなアジテイションであり、この悪坊主の強烈オルグなかりせば、平家打倒のいささか早すぎたのろしも印璽も、かくも速やかに全国に出回ることはなかっただろう。

 

 昔流のマルクス主義者はなんと理屈づけるか知らないが、今も昔も革命はすぐれて人間的行為の突然変異的所産であり、その全運動を最初期において駆動するのは、無謀とも狂気とも思われる特定の運動家の突発的暴発と自己投企に他ならない。

 

 短兵急に極論を吐けば、源氏革命は源三位頼政と文覚上人によって連続的に一点突破され、それ以降の全面展開をもたらしたのである。

 

 

 物を売ることにまつわるさまざまな手立てはつねにいささか物悲しきかな 蝶人