蝶人戯画録

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金原ひとみの「ハイドラ」を読む


降っても照っても第31回

 題名のHydraは9つの首を持つ海蛇であるが、この小説の主人公は二つの首しか持たず、しかもその2つがお互いにぐるぐる巻きになってしまって、どちらを主人公にしていいのか自分でもわからなくなってしまう「双頭の蛇女」である。

拒食症に悩む読者モデルやヘアメイク、ホモセクシャル、人気ロックミュジシヤンなどが続々登場するので、これはおしゃれな風俗小説かと思ってすいすい読んでいったが、なんととっても古めかしい三文読みきり小説でした。

しかもテーマが、古い言葉で恐縮だが、理想と現実、もしくは新しく危険な未来と勝手知ったる手馴れた日常、との対立、相克ときたもんだ。

さらにこの双頭の蛇女ときたら、なんだかんだがありながら後者の道を選びなおすというのだから、まるで話が面白くない。たかが小説でしょ。そんなに簡単に元のさやに戻らず、せめて新しい男との波乱万丈の共同生活の成り行きをしっかり描写してから、本書の筆をおいてほしかった。