蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

2014-10-01から1ヶ月間の記事一覧

西暦2014年神無月蝶人花鳥風月狂歌三昧

ある晴れた日に 第263回 桜の樹のどこいらで鳴いているのか油蝉昔よくオシッコをひっかけられたが 雨空に一筋の光差し込めば一斉に鳴き始める蝉たち キャンパスに蝉声響動もす昼下がり生涯最後の授業終えけり 今年は平成何年なるか時々分からなくなる天皇…

ティエリー・ラゴベール、ティエリー・ピアンタニダ監督の「ホワイト・プラネット」をみて

bowyow cine-archives vol.724 北極海に生きる白クマやアザラシやカリブー、クジラなどさまざまな生き物の生態をなまなましく、おそろしいほど美しく写し取った、芸術的な完成度を誇る、ドキュメンタリー映画なり。 我われ人間どものおかげで氷河が溶け出し…

「ハート」のつく映画を2本みて

キャスリン・ビグロー監督の「ハート・ロッカー」をみて bowyow cine-archives vol.722 大義なきイラク戦争に従軍し、命懸けの爆弾処理に従事する米軍兵士が、そのハラハラ、ドキドキが忘れられなくなり、無事に帰国したというのに、またしても生きるか死ぬ…

国立劇場で「双蝶々曲輪日記」千穐楽をみて

茫洋物見遊山記第155回 『双蝶々曲輪日記』と書いて「ふたつちょうちょうくるわにっき」と読ませるとはなんとお洒落な江戸の文人よ。雅号「蝶人」を名乗る者としてはなんとしてでも東京にイカナバナラヌウということで国立劇場の千穐楽を見物して参りまし…

ウォルター・ヒル監督の「ロング・ライダーズ」をみて

bowyow cine-archives vol.721 有名なジェシー・ジェイムズ一派の銀行強盗の内幕を、彼らの女性関係の挿話を含めて淡淡と描くが、そのクールさがたまらない。 悪党どもの悪行とあわせてその人間のたたずまいもしっかりと押さえている点が秀逸なり。 ウォルタ…

緑の王国~「これでも詩かよ」第105番

ある晴れた日に 第262回 私は緑の王国の中で目を瞑って 寒冷紗の網をじっと握りしめながら、 いつもの場所で、蝶を待ち構えている。 やがて大きな黒い蝶が、風のように峠の向こうから飛んでくる。 私は大きな白い網を振り回すが、それは逃げてしまう。 黄…

ほんにお前は屁のやうな

バガテル-そんな私のここだけの話op.186&鎌倉ちょっと不思議な物語第322回&勝手に建築観光第55回 日本の近代建築20選に選ばれるなど内外から高い評価を受けている神奈川県立近代美術館鎌倉館が廃止されるという緊急事態を前にして、遅まきながら反対…

杉田成道監督の「最後の忠臣蔵」をみて

bowyow cine-archives vol.720 討ち入りから16年。赤穂浪士の生き残り・寺坂吉右衛門と瀬尾孫左衛門をめぐる後日談。池宮彰一郎の原作を杉田成道が演出して、それなりに格調高い映画に仕立てている。 大石内蔵助の足軽、寺坂は当日の討ち入りに参加しながら…

ピート・トラヴィス監督の「バンテージ・ポイント」をみて

bowyow cine-archives vol.719 スペインで開かれた平和国際会議における米国大統領暗殺事件におけるシークレット・サービス(デニス・クエイド)の大活躍を描くサスペンス活劇映画なり。 この手の映画では必ずといってもいいほど、テロリストの正体とその人…

アンドリュー・V・マクラグレン監督の「大西部への道」をみて

bowyow cine-archives vol.718 1840年代に不況のミズーリ州から一穫千金を夢見てオレゴンへ向かった幌馬車隊の悪戦苦闘の物語なり。 幌馬車隊を率いるのがカークダグラス、開拓民の頭目がリチャード・ウィイドマーク、案内役がロバート・ミッチャムでこ…

久松静児監督の「地の涯に生きるもの」をみて

bowyow cine-archives vol.717 これは1960年制作の日本映画で、国後島出見の漁師、森繁久彌の悲しき生涯を綿綿と綴っていくのだが、にっくきソ連(ロシア)に北方領土を略奪された怒りがまったく表現されていないのが見ていても腹立たしい。 トルストイ…

松尾昭男監督の「打倒 ノックダウン」をみて

bowyow cine-archives vol.716 赤木圭一郎が新人ボクサーになって活躍する拳闘劇画なり。 赤木圭一郎は裕次郎、旭の真似をしてカッコつけたりギターを弾きながらいかにも恥ずかしげに歌をうたったりするが、それがものすごく下手糞なところがよい。 喉が良い…

オードリー・ウェルズ監督の「トスカーナの休日」をみて

bowyow cine-archives vol.715 サンフランシスコで恋人に振られた作家がたまたま訪れたイタリア・トスカナ地方の小さな村の屋敷が気に入り、そのままそこに住むうちに、さまざまな人々との交流に生きがいを見出し、第2の人生を切り開いていくというお話なり…

フレッド・ジンネマン監督の「ジャッカルの日」をみて

bowyow cine-archives vol.714 極右テロリストが雇った英国の殺し屋ジャッカル(エドワード・フォックス)が仏蘭西のドゴール大統領を暗殺しようとするが失敗して殺される話です。 ともかくフォーサイスの原作がよくできていて、ハラハラドキドキしながら最…

三宅喜重監督の「阪急電車片道15分の奇跡」をみて

bowyow cine-archives vol.713 日本の電車の中でいちばんかっこいいのは阪急電車、いっとうかっこいい駅は阪急梅田駅と私は昔から考えている。 素晴らしいのはなんというてもあの重厚な「ぶだういろ」の外装で、これを東京のみどりの山手線や黄色な中央線の…

ペンキ塗り~「これでも詩かよ」第104番

ある晴れた日に 第262回 茶色い家にしようと思ったが 待てよそれではありきたり すっぱりあきらめ青にした 青の家にしようと思ったが 待てよそれでは冬寒い すっぱりあきらめピンクにした ピンクの家にしようと思ったが 待てよそれでは色情狂 すっぱりあ…

夢は第2の人生である 第20回

西暦2014年文月蝶人酔生夢死幾百夜 J.クルーの来秋冬シーズンのメンズのパンツのシルエットが、みんなサブリナパンツにように絞られいるので、驚いてデザイナーのエミリー・ウッズに修正するように頼むのだが、彼女はどうしても妥協しないのであった。7/…

キング・ヴィダー監督の「戦争と平和」をみて

bowyow cine-archives vol.712 ハリウッドがトルストイを映画にするとこうなるという見本のような大スター主義の娯楽映画です。 そこでは戦争も平和も歴史も国家も人間の実在の手ごたえもあらかた消しとんで、最後はオードリー・ヘプバーンとヘンリー・フォ…

丸谷才一著「丸谷才一全集第11巻」を読んで

照る日曇る日第734回 英文学者としての著者が全精力を傾けたジェームズ・ジョイス論を中心に、プルースト、エリオット、ヘミングウエイ、ナボコフ、ボルヘスなどの海外文学論がずらずら並んでいる。 みなそれぞれに面白いからお読みくださいな、としかい…

山崎方代著「もしもし山崎方代ですが」を読んで

照る日曇る日第733回 しみじみと三月の空ははれあがりもしもし山崎方代ですが ことことと雨戸を叩く春の音鍵をはずして入れてやりたり 朝めしをかるくすませて面映ゆく世間をよそに横になりたり 幸はねて待つものと六十を過ぎし今でも信じています 山崎方…

ラップの歌~「これでも詩かよ」第103番

ある晴れた日に 第261回 包む包む、ラップで包む トウモロコシをラップで包んで チンをする 包む包む、ラップで包む お餅をラップで包んで チンをする 包む包む、ラップで包む 盲導犬を刺した奴をラップで包んで チンをする 包む包む、ラップで包む 絶叫す…

ジェームズ・マンゴールド監督の「アイデンティティ」をみて

bowyow cine-archives vol.711 いわゆる多重人格者が次々にその人格を変えていくが、その人格の中に悪い奴がおって、その悪い奴が次々に殺人事件を起こした場合、その悪い奴は多重人格者の一部ではあるが全部ではなく、ましてその多重人格者の人格は一枚岩で…

リチャード・アッテンボロー監督の「あの日の指輪を待つ君へ」&フランク・クレイマー監督の「西部悪人伝」をみて  

リチャード・アッテンボロー監督の「あの日の指輪を待つ君へ」 bowyow cine-archives vol.709 今年79歳になるシャーリー・マクレーンが出ているというだけで価値がある映画なり。 戦争花嫁になってしまったヒロインが、その愛を終生貫きとおすという感動の…

丸谷才一著「丸谷才一全集第6巻」を読んで

照る日曇る日第732回 本巻では「輝く日の宮」をはじめ「持ち重りする薔薇の花」「茶色い戦争ありました」「ゆがんだ太陽」など全6篇を収めていますが、まず読むべきは「輝く日の宮」でしょう。 これは若く美しく知的な女主人公をめぐる恋愛や学界のスキ…

ブレイク・エドワーズ監督の「グレートレース」をみて

bowyow cine-archives vol.708 サザエさん「どうだった? 面白かった?」 カツオ「これって喜劇映画なんでしょ? だとしたら全然面白くない。大失敗作だと思う。だって面白かったのはケーキ投げのシーンだけなんだもの」 マスオさん「せっかくジャック・レモ…

市川昆監督の「犬神家の一族」をみて

bowyow cine-archives vol.707 ドラえもん「ああ、つかれた。なんだかよく分からないえいがだったなあ」 のび太「いったい誰が悪者で、どういう目的でどんどん人を殺していくのか、さっぱり分からなかったなあ」 ドラえもん「けっきょくあの大きな顔をした、…

クリント・イーストウッド監督の「ガントレット」をみて

bowyow cine-archives vol.706 サザエさん「悪い上司の陰謀にひっかかってあやうく殺されそうになった警官のイーストウッド選手が、護送を命じられた大卒の売春婦と恋に落ち、権力の武装装置との対決に打ち克って、見事の上司に復讐を遂げる大活劇メロドラマ…

内田吐夢監督の「真剣勝負」をみて

bowyow cine-archives vol.705 内田吐夢が描く中村錦之介の宮本武蔵の番外編にして遺作だが、きわめて異色の内容になっている。 このたびは鎖鎌の名人宍戸梅軒(三国連太郎)と対決するのだが、愛児を抱えた梅軒の妻(沖山秀子)も鎖鎌の達人であり、武蔵は…

アンジェイ・ワイダ監督の「カティンの森」をみて

bowyow cine-archives vol.704 父親をカティンの森で赤軍に惨殺された男の怒りと悲しみと怨念が籠った1作なり。 1939年、世にも不思議な独ソ平和条約を締結した東西の鬼が、哀れな兎を頭と尻尾からそれぞれ食いちぎる。 第2次大戦で激突した独ソのどち…

芋粥

家族の肖像 その3~「これでも詩かよ」第102番 ある晴れた日に 第260回 寒い寒い冬の朝、 大きなお釜の中には、芋と粥がドッサリ。 まず母の愛子さんが、 祖父の小太郎さんの芋と粥とを掬い取る。 次に長男の私と次男と妹の芋粥の芋と粥を、 母の愛子…