蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

2010-01-01から1年間の記事一覧

西暦2010年極月茫洋狂歌三昧

♪ある晴れた日に 第83回 なんだって後出しじゃんけんで偉さうに歴史を裁くなダンテ円安の時は黙って左団扇円高になれば泣いて文句言う幼児の如き輸出企業ひだりぎっちょなので小便も左に向かって飛んで行くロシアといえばイワンの馬鹿を思うロシアの馬鹿三…

ブダペスト弦楽四重奏団の「ベートーヴェン全集」を聞いて

♪音楽千夜一夜 第173夜これも1枚200円也のソニーの廉価盤の8枚組ですが、値段と演奏はともかく録音のひどさは目に、いや耳に余ります。同じ演奏をLPレコードで聴いてみると、かなり楽器に近接したオンではありますが、大きく生々しい音がしてそれ…

ギュンター・ヴァント指揮ケルン放響の「ブルックナー交響曲全集」を

♪音楽千夜一夜 第172夜ギュンター・ヴァントが指揮するブルックナー! こう印字しただけで、私の脳内は彼がやってのける、あの立派で、高潔で、非の打ちどころのない音楽に満たされていく快感を覚えてしまう。それは私が最も高く評価するチエリビダッケの…

ベルリンフィルの「モーツアルト集」を聞く

♪音楽千夜一夜 第171夜昨日と同じソニーの超廉価盤でモーツアルトの7枚組を聴いてみました。この「聴いてみました」を私はよく「聞いてみました」と印字しているが、それで前者は少しく熱心に音声に耳を傾けるという点で後者と趣を異にするということを…

ジェームズ・レヴァインの「マーラー交響曲集」を聞いて

♪音楽千夜一夜 第170夜 豚のように太った人間はいくらその中身がよくっても、見るからに嫌なもんだが、(例えばイジュウインなんとかという豚。もっと節制せよ!)音楽関係ではパバロッティとこのレヴァインだけは例外だ。もっともっと太れ。太ってもかま…

小川国夫著「襲いかかる聖書」を読んで

照る日曇る日 第396回一瞬、彼の遺著「弱い神」以降の作品が発掘されたのかと思ったが、そうではなく、彼の昔の作品をどこかの誰かが編んだ「聖書」を軸にしたエッセイと対話集と未完の小説によるアンソロジーであった。題名にしても彼がつけたものではな…

メトのプッチーニ「トゥーランドット」を視聴する

♪音楽千夜一夜 第169夜やはり昨年の11月7日に行われたメトロポリタン・オペラ公演のライブ収録です。指揮者はアンドリス・ネルソンズという若い人。果物で言うと青い梅のような生硬さが随所に顔をのぞかせ、先輩のジェームズ・レバインに比べたら10…

長谷の「甘縄神明宮」を訪ねて

鎌倉ちょっと不思議な物語第238回&茫洋物見遊山記第51回甘は海女、縄は漁の縄という説があるそうですが、さあどうでしょうか。この甘縄神明神社、別名甘縄神明宮は天照大御神を祀っていますが、和銅年間(708-715年)にこのあたりの豪族染谷太郎…

坂ノ下の「御霊神社」を訪ねて

鎌倉ちょっと不思議な物語第237回&茫洋物見遊山記第50回 星ノ井の近くにある名物の力餅屋の近くにあるのがこの御霊神社で、祭神は鎌倉権五郎という勇猛な武将です。源義家に従って「後三年の役」(1083-87)に出陣した権五郎は、秋田の金沢の柵を攻め…

秋山哲雄著「都市鎌倉の中世史」を読んで

照る日曇る日 第395回&鎌倉ちょっと不思議な物語第237回 まったくなんの期待もなく読み始めた本なのに、これはびっくり驚いた。「吾妻鏡の舞台と主役たち」という副題がついた本書で、著者は、鎌倉とそこに生きた人々の生活と歴史を根本的に見直し、…

極楽寺坂下の「星ノ井」を訪ねて

鎌倉ちょっと不思議な物語第236回 鎌倉は水の悪い土地でしたが、一〇の井戸と太刀洗い水など5つの名水がありました。平安時代の有名な歌人、藤原公任にわれひとり かまくらやまを こえゆけば 星月夜こそ うれしけれという和歌があり、星月夜は鎌倉の枕詞…

ジョゼフ・コラネリ指揮メトで「トスカ」公演のビデオを見る

♪音楽千夜一夜 第168夜 昨年10月10日に、NYのメトロポリタン・オペラハウスで行われた「トスカ」のライブ放送です。指揮者は名前を聞いたこともない中年男でしたが、いわゆる職人肌の劇伴に徹していて、ヒロインのカリタ・マッティラやヒーローのマル…

五味文彦編「現代語訳吾妻鏡9執権政治」を読んで

照る日曇る日 第394回&鎌倉ちょっと不思議な物語第235回私の偏愛する3大将軍が北条家の陰謀で暗殺されたあとは、もう悪辣非道な北条一族が頼朝ゆかりの宿老たちをまるで鶯をなぶり殺しにするタイワンリスのように血祭りに上げるだけの陰惨な悲劇の連…

林望訳「源氏物語四」を読んで

照る日曇る日 第393回身から出た錆びの性欲肥大の罪障によって配流された明石から見事京に帰還した源氏は、その後いかなる運命のいたずらか、とんとん拍子に位階人臣を極め、六条の広大な敷地に泉水、庭園、美女、下人、牛馬を備えた大邸宅を構えて、東西…

フラバル著「わたしは英国王に給仕した」を読んで

照る日曇る日 第392回現在のチェコに生まれ、1997年の2月3日に病院の5階から鳩に餌をやろうとして82歳で転落死した作家が、ある夏の日に激しい日差しにさらされながら3週間で一気阿成に「アクアション・ライティンング」したカタリが本書です。…

極月三題噺

バガテルop133日本経済新聞。 毎日これほど膨大な数字を取り扱う媒体は類を見ないが、石川啄木のような人が校正しているのであろうか。たまには誤植もあるのではなかろうか。この新聞の文芸欄は朝日より充実しているが、最近連載が終わった小池真理子とい…

ヒッチコック監督の「知りすぎていた男」を見ながら

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.671956年公開のスリラー映画の傑作。ヒッチは何気なく昼下がりの無人の街路を撮って見せても、それだけで観客を怖いと思わせることができた人。何回見てもいくつもの見落としと新たな発見がある映画です。今回の発…

山本薩夫監督の「華麗なる一族」を見ながら

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.66山崎豊子と組むと無類の面白さを発揮する山本薩夫の代表作です。この人はいかにもな旧時代型の反体制主義者なおですが、であるがゆえに安心し、かつ、たかをくくって見物していられるところに、いわゆるひとつの偉大…

「あるいは裏切りという名の犬」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.65パリ警視庁のある「オルフェーブル河岸36」という題名が、どうしてこのような訳のわからないタイトルになってしまうのか不可解だが、この血なまぐさい警官の殺戮と暗闘の物語は実話だというから驚く。ともかくパリ警…

梅原猛著「世阿弥の神秘」を読んで

照る日曇る日 第391回角川から出ている「うつぼ舟」シリーズの第3巻である。本巻の主題は世阿弥作品に流れる思想の研究である。著者はわが国の能を主導した世阿弥の代表作を俎上に載せて、その根幹思想を例によって梅原流にえぐり出そうと試みている。著…

マイケル・アプテッド監督の「エニグマ」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.65「エニグマ」はエルガーの曲でよく知られているが、その同じ名前をナチスが自軍の暗号名としていたとは知らなかった。この映画は、第二次大戦中にそのエニグマの謎の解明に青春を捧げた英国暗号解読チームの知られざ…

山本薩夫監督「続忍びの者」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.65かろうじて生き残った五右衛門だったが、もう忍者稼業は卒業だ。親子3人水入らずで楽しく暮らそうと思っていたところへ、乱入してきた信長の家来に愛児を殺されてしまう。怒り狂った五右衛門は、最後に残った一向一…

山本薩夫監督「忍びの者」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.64村山知義の原作を昭和37(1962)年に山本薩夫が映画化した大映映画だが、これは漫画以下のおそまつな出来栄え。市川雷蔵が扮する石川五右衛門が主人公でその恋人が藤村志保というコンビもいまだ青臭く、稚拙な演技…

原護監督・三谷幸喜原作脚本の「笑の大学」を見る

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.63監督は誰でもいいが、あくまでも原作と脚本を書いた三谷幸喜の作品である。時は昭和一五年。太平洋戦争突入寸前の浅草のボードヴィル劇団「笑の大学」の座付き作者稲垣吾朗が、警視庁保安課検閲係の役所広司と繰り広…

三谷幸喜脚本・監督の「みんなのいえ」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.62三谷幸喜は題材を見つけるのが非常にうまいが、これもほぼそれに尽きている。恐らくは彼自身の個人的な体験がこのユニークな喜劇を生みだしたのだろう。一生に3軒作らないと理想的な家はできないとよく言われるが、…

三谷幸喜原作・脚本・監督の「ラヂオの時間」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.61一人の主婦が書いた処女脚本が、プロの演出家やプロデューサー、役者、マネージャー、スポンサーたちの思惑によってあれよあれよと思う間もなくどんどん書きかえられ、修正されていく。はじめは国内のパチンコ屋の主…

オーソン・ウェルズ監督の「黒い罠」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.60ファルスタッフのように醜く肥満した体躯にどんとのっかっている「ごんずい」のような顔の上部から照射される鋭い眼光……。悪をやらせたら天下無敵の男オーソン・ウェルズが、正義派チャールトン・ヘストンを向こうに…

「車谷長吉全集第三巻」を読んで

照る日曇る日 第390回一か月がかりで大部の「車谷長吉全集第三巻」をやっとこさっとこ読みあげて次のようなことが判明した。車谷長吉は、常に頭陀袋と抜き身の剣をぶら下げた平成最後の文士である。車谷長吉は、人生の本質は淋しさであり、その淋しさは人…

ダンテの「神曲」を読んで

照る日曇る日 第389回キリスト教世界では聖書に次いで重要とされるとかいうこの本。これまで野上素一、寿岳文章両先生の訳で読みましたがどうにもこうにも陸に上った海鼠のように面白くもおかしくもない喰えない書物。いったいどこが世界の名著なのかと頭…

イングマール・ベルイマン監督の「サラバンド」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.59昨日の「ある結婚の風景」の2003年製作の続編です。それぞれ60代と80代に達したマリアン(リブ・ウルマン)とユーハン(エルランド・ヨセフソン)がユーハンの別荘で久しぶりに再会。そこで繰り広げられる新たな血族…