蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

2011-06-01から1ヶ月間の記事一覧

西暦2011年水無月 蝶人狂歌三昧

♪ある晴れた日に 第93回 鶯や全山アリアに聴き惚れて三匹の火垂る輪舞し皐月尽天に星地に蛍舞う良夜かな一匹の蛍が統べている私の暗闇二人して蛍見に行くうれしさよ別々の葉っぱで眠る紋白蝶大ニッポン疲弊して咲く栗の花山笑う岩波文庫を読まぬ莫迦柑橘を…

内田樹・高橋源一郎著「沈む日本を愛せますか?」を読んで

照る日曇る日第438回表題の問いかけについては、もちろんイエスだが、別に無理矢理愛する必要はないでしょう。ジャパンがじゃんじゃんシュリンクすることは、五五年体制が崩壊し、バブルが崩壊し、戦後が崩壊したときからみんな分かっていたことで、ただそれ…

鎌倉「銭洗弁天宇賀福神社」を訪ねて

茫洋物見遊山記第58 回&鎌倉ちょっと不思議な物語第241回 この神社は文治元年1185年に源頼朝の夢枕に宇賀福神が立ち、鎌倉の西北に湧き出している霊水で神仏を祀れば人民は信仰にめざめ、国内も平和になるであろうよと託宣があったことにはじまるという…

梟が鳴く森で 第3部さすらい 第1回

bowyow megalomania theater vol.1 11月25日 曇昨夜、お母さんの夢を見ました。お母さんはおっしゃいました。岳君でしょう。岳君も行っといで。変名食べ方したら、、変な食べ方したら、理恵先生に、笑われちゃうよ。又理恵、見てる。先生の言う事、聞か…

ビリー・ワイルダー監督の「翼よ! あれが巴里の灯だ」を観て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.127この1957年製作の米映画は初めて見た時も感動したが、久しぶりに再見してまたしても涙した。1927年の5月にニューヨークのルーズベルト飛行場を単葉単発機で飛び立ったアメリカの朴訥な青年が、大西洋を横…

ピナ・バウシュ演出ウッパタール舞踏団の「私と踊って」を視聴して

♪音楽千夜一夜 第209夜 ほんとはこれは音楽としてはドイツの古い民謡が効果的に使われていても、音楽以上に演劇と舞踊と音楽が混然一体となった一種の総合芸術なのだが、どこに入れたらいいのか分からないので、ここで千夜一夜することにする。昨日も今日も…

川西政明著「新・日本文壇史第5巻」を読んで 後篇

照る日曇る日第437回川端康成の「雪国」の駒子のモデル、小高キクがなんと昨二〇一〇年一月三一日に八三歳で亡くなったとは知らなんだ。著者はこの雪国が後年の「美しい日本の私」への一里塚であったことを手際よく論証している。最後のとっておきのお楽しみ…

川西政明著「新・日本文壇史第5巻」を読んで 前篇

照る日曇る日第436回 いよいよ佳境に入る川西文壇史の第5冊は「昭和モダンと転向」を主題に伊藤整、高見順、平野謙、中野重治、川端康成、井伏鱒二の、生と性と青春と政治と文学を取り扱う。この六名の文学者のうち著者がもっとも精魂こめて論じたのが中野…

クラウディオ・アバド指揮ルツエルン祝祭管の「マーラー第9」を視聴

♪音楽千夜一夜 第208夜昨2010年8月20、21日にスイスのルツエルン文化会議センターで行われた演奏のライブを衛星放送の録画で視聴しました。まずこの人のマーラーは、ちっとも苦しんだり不安に苛まれたりしていないのが途方もなく奇妙かつユニークです…

梟が鳴く森で 第2部たたかい 第53回

bowyow megalomania theater vol.1 歌いながら洋子は、両手を夜空に高く掲げつつ、細長い身体をゆっくりくねらせながら踊るのでした。ああ、私の好きだった男の子たちよ 橋爪君、吉元君、黒田君、安田君、相沢君、ヨハン・ヘリベンシエール君、 どこへ行って…

川本三郎著「マイ・バック・ページ」を読んで

照る日曇る日第435回著者が70年代に政治的な事件を起こしたことは知っていたが、それを本人の言葉で逐一綴られたものを読んだのは初めてだ。取材の過程で知り合った「それなりの思想犯」だと思った男が、朝霞自衛官殺害事件を引き起こした。警察はまだ犯人が…

佐渡裕指揮ベルリン・フィルの演奏を視聴して

♪音楽千夜一夜 第207夜 今年5月20日にベルリンのフィルハーモニーで行われたベルリン・フィルの定期ライヴをBS放送で視聴しました。まず武満徹の「フロム・ミー・フローズ・ホワット・ユー・コール・タイム」ですが、これが今まで誰からも聴かされたことの…

梟が鳴く森で 第2部たたかい 第52回

bowyow megalomania theater vol.1 雨は次第に勢いを増しながら、少なからぬ犠牲を出した機動隊と警官隊員の上に、そしてほぼ壊滅した星の子の仲間の上に、激しく降りつのりました。その日から一週間降り続けた集中豪雨は、不思議なお家を跡かたもなく押し流…

梟が鳴く森で 第2部たたかい 第51回

bowyow megalomania theater vol.1 Ofuna,Hongodai,Konandai,Yokodai,Shinsugita,Isogo,Negishi,Yamate,Ishikawacho,Knnai,Sakuragicho,Yokohama,Higashikanagawa,Shinkoyasu,Tsurumi,Kawaski,Kamata,Omori,Ooimachi,Shinagawa,Tmamachi,Hamamatsucho…………そ…

梟が鳴く森で 第2部たたかい 第50回

bowyow megalomania theater vol.1 文枝と思われる、けれども首のない、血だらけの死体もありました。文枝がいつも着ていたGO! YOGHI GO!と書かれた、寝ぼけウサギのトレーナーがその目印でした。 ひとはるちゃんと文枝の無惨な死体を見る僕の心にはなんの感…

梟が鳴く森で 第2部たたかい 第49回

bowyow megalomania theater vol.1 気がついた時は、またしても夜でした。すごいほどの冷たい光を放つ鎌のような月は、初冬の夜空を鋭く切り裂き続けていました。そしてお月さまの真ん中には、なぜか目の中のごみのように赤い雲が染みついていました。僕は夜…

Charles Munch Conducts Romantic Masterworkを聴いて

♪音楽千夜一夜 第206夜 シャルル・ミンシュは昔からとても好きな指揮者だったが、最近の無能な指揮者の大洪水の中で、さらにその値打ちと有難味が増してきた。私が宝物のように大事にしているのは、1998年に仏AUVIDISから印刻されたフランス国立管弦楽団…

梟が鳴く森で 第2部たたかい 第48回

bowyow megalomania theater vol.1 たちまちあたりは阿鼻叫喚、真昼の暗黒、地獄の一丁目と化し、アイウエオ順に、青木雪子、井出一夫、石田太郎、内山治、江川由紀、小川朋子、加藤アキ、門田あきら、栗川新一郎、小宮百合、佐々木眞、佐川芳吉、佐藤国義、…

SONY CLASSICAL VIVARTE BOX全60枚組CDセットを聴いて

♪音楽千夜一夜 第205夜ソニーが連発する超安価シリーズには「安物買いの銭失い」が得意の私も、ついつい財布のひもを緩めて買ってしまい、あとで激しくほぞをかむことも多いのですが、この1枚203円の古楽シリーズはじつに素晴らしかった。バッハを皮切り…

梟が鳴く森で 第2部たたかい 第47回

bowyow megalomania theater vol.1 一〇名の特別攻撃隊を喪った警官隊の総攻撃が始まったのは、それから間もなくのことでした。まずゲオルグ・ショルティ指揮ウイーンフィルが演奏するワーグナー作曲「ワルキューレの騎行」の三二チャンネルマルチ・ドルビー…

林瑞絵著「フランス映画どこへ行く」(花伝社刊)を読んで

照る日曇る日第434回私は日本やハリウッドの映画も好きですが、ヨーロッパの映画も大好きで、かつてフランスのヌーヴェルヴァーグの作品群からは、なにやら得体の知れない後光が差し込んでくるような有り難い思いで銀幕を拝んだものでした。 しかし御大ゴダ…

サイモン・ラトルの「EMIベートーヴェン選集9枚組」を聴いて

♪音楽千夜一夜 第204夜得体の知れないリバプール野郎のラトルがどうしてアバドの後を継いでベルリンフィルのシェフの座を継ぐことが出来たのかはよく分からない。本人すらよく分からない五里霧中の演奏を延々と続ける中で、ようやくその霧にいくばくかの晴れ…

梟が鳴く森で 第2部たたかい 第46回

bowyow megalomania theater vol.1 十人の死体のいちばん底から、公平君の死体がぺっちゃんこになって出てきました。文枝と洋子は泣きながら公平君のぐちゃぐちゃの死体の上から白い布を何枚も掛け、のぶいっちゃんとひとはるちゃんが頭と足を持って不思議な…

フルトヴェングラーの「THE GREAT EMI RECORDI

♪音楽千夜一夜 第203夜 昔の指揮者の古い録音を聴いていると、いまどきの若手や中堅の音楽家がいかにつまらない低級な演奏に血道をあげているのがよく分かります。文学や映画もそうですが、古典的名作の凄さと素晴らしさを知らないで、阿呆な創作を夜郎事大…

松山善三監督の「名もなく貧しく美しく」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.1261961年に製作されたこの映画は、手話が大活躍する聾唖の夫婦の愛の物語で、薄幸の妻を高峰秀子、夫を小林桂樹が熱演して江湖の子女の紅涙を絞らずにはおかない所謂ひとつの感動巨篇には違いないだろう。しかし…

関川夏央著「子規、最後の八年」を読んで

照る日曇る日第433回近代日本語の建築とそれを通じての俳句と和歌の近代化に多くの功績を上げた子規について思う時、そのイメージの中心で浮遊しているのは根岸の子規庵である。短すぎた彼の晩年の暮らしと芸術の拠点はこの粗末な寓居であり、そこにくりのべ…

梟が鳴く森で 第2部たたかい 第45回

bowyow megalomania theater vol.1 ふと僕がわれに返ってあたりを見回すと、星の子の仲間たちに取り囲まれ、黒衣の特別攻撃隊10名の血まみれの死体が、岡に打ち上げられたマグロのように横たわっていました。「そいつらをバリケードの外へ放り出せえ!」と、…

梟が鳴く森で 第2部たたかい 第44回

bowyow megalomania theater vol.1 それなのに突然僕の頭の中は、目の前とは全然関係のない言葉がまるで洪水のようにぐるぐるとあふれかえっています。話が違うじゃないか、ルールを無視した昇段の進め方、私には許せん。イエスカノーカー、はっきり、して、…

ワレリー・ゲルギエフ指揮「トロイアの人々」を視聴して

♪音楽千夜一夜 第202夜2009年11月にスペインのバレンシア州立管弦楽団と合唱団を率いて勢力絶倫のワレリー・ゲルギエフが振ったライブビデオです。 ベルリオーズがウエルギリウスの原作にインスパイアーされて作曲したこのオペラは、演奏時間が4時間…

トマス・ピンチョン著「?.」下巻を読んで

照る日曇る日第432回 天才か鬼才か、はたまた単なるクレージー文学小僧か? いずれにせよ弱冠27歳の青年がこのような驚天動地の世界文学を捏造するとはたいしたたまげた。次から次へと果てしなく繰り出される意味ありげでじつはなにも意味がない挿話の数々を…