蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

2009-03-01から1ヶ月間の記事一覧

西暦2009年茫洋弥生歌日記

♪ある晴れた日に 第55回 親子三人手と手を取り合い海辺の墓地に死すさながら西方浄土にあらずや遥かなるインドエローラ、アジャンター石窟から渡来したり鎌倉のやぐら坊やさあいらっしゃいとたばら蟹のごとき両肢で僕の下半身を絡めとる高樹のぶ子もしかす…

浄光明寺と「地蔵やぐら」

鎌倉ちょっと不思議な物語第171回またこの浄光明寺には、これら数多くの史跡とともに、これからご紹介する「地蔵やぐら」通称「網引きやぐら」があります。「地蔵やぐら」の天井には天蓋をつりさげた円形とそれを支えた梁の跡の溝がみられ貴重な遺跡とな…

春の浄光明寺を訪ねて

鎌倉ちょっと不思議な物語第170回浄光明寺は皇室の菩提寺である京都の泉涌寺を本山とする「準別格本山」であり、慶長3年1251年に6代目執権の北条長時が真阿上人を開山として創建したお寺ですが、それ以前に源頼朝が頼んで文覚上人が建てたお堂がそ…

バレンボイム・ベルリン国立で「コシ・ファントゥッテ」を視聴する

♪音楽千夜一夜第60回02年9月のバレンボイム指揮ベルリン国立ライブで「コシ・ファントゥッテ」を視聴する。近年モーツアルトのコシはますます上演機会が増え、さまざまな演奏と演出が登場してわれわれを楽しませてくれるようになった。それはこのダポン…

ドニゼッテイ「マリア・ストゥアルダ」を視聴する

♪音楽千夜一夜第59回 08年1月のミラノ・スカラ座ライブでドニゼッテイ「マリア・ストゥアルダ」を視聴する「マリア・ストゥアルダ」はて何じゃらほい、といぶかしく思う向きもあるだろうが、なんのことはない、これはスコットランドの女王、「マリー・…

「相馬師常やぐら」を訪ねて

鎌倉ちょっと不思議な物語第169回相馬師常は源頼朝の重臣、千葉常胤に次男で、相馬氏の祖となった武将です。1180年(治承4年)の頼朝挙兵に父常胤と共に参加して活躍した相馬師常は、その後も奥州征伐などで多くの戦功を挙げました。念仏行者として…

「瓜ヶ谷やぐら」を訪ねて

鎌倉ちょっと不思議な物語第168回 今度は坂道を東にわたって田圃に降りて海蔵寺の麓あたりに位置する瓜ヶ谷やぐらに向かいます。ここは別名「東瓜ヶ谷やぐら」、五つの穴がありますが、一号穴は「地蔵やぐら」とも称される約二〇畳くらいの大型やぐらです…

洋服解体新書

ふあっちょん幻論第41回幕末から明治にかけて洋服の強制的な導入はさまざまな混乱をもたらした。たとえば和服は直線裁ちであるが、洋服は曲線裁ちである。曲線裁ちのできる洋服職人もそんな技術も不在だったので、足袋職人が最初の縫製士となった。足袋職…

母7周忌に寄せて

♪ある晴れた日に 第54回 真夜中の携帯が待ち受けている冥界からの便り母上の声われのことを豚児と書かれし日もありきもいちど豚児と呼ばれたし天ざかる鄙の里にて侘びし人 八十路を過ぎてひとり逝きたり 日曜は聖なる神をほめ誉えん 母は高音我等は低音 教…

「一四やぐら」を訪ねて

鎌倉ちょっと不思議な物語第167回私たちはまず北鎌倉の「西瓜ヶ谷やぐら」を訪ねました。鎌倉時代に鎌倉とそれ以外の地を切り離している地点に十王堂橋がかかっていました。ここには関所(交番)もあり、この十王堂橋から大切岸(瓜ヶ谷やぐら)または梶…

早春賦

バガテルop92 今年もまた春が来ました。亀田さんの庭に桜の花が咲き、樋口さんの庭ではだいぶ前から白いモクレンが咲き誇っています。 朝の驟雨がお昼にはおさまって青空がのぞいたので、妻君と一緒に近くの朝比奈の滝まで散歩に出かけました。土饅頭のよ…

アーサー・ウェーリー英語訳・佐復秀樹訳「源氏物語3」を読んで

照る日曇る日第244回アーサー・ウェーリーによる源氏物語は谷崎などの翻訳とは一味もふた味も異なっていて、物語の進行速度がはやい。物語の推進を邪魔する枝葉の部分を大胆にカットしていること、紫式部が念入りにこさえた、どこが頭でどこが尻尾か分か…

小川国夫著「イエス・キリストの生涯を読む」を読んで

照る日曇る日第243回イエスの言葉については郷里の丹陽教会で、S牧師をつうじて再三再四にわたって日夜聞かされたが、神やイエスの実在について、わたしはどうしても信じることができなかった。まことに失礼ながら、時折はまるで夜店の香具師のような説…

感傷的な日記

バガテルop91昨日は久しぶりに東京に出ました。お世話になっている方が先日結婚式を挙げられ、おまけに新居も完成されたというので、長男が通っている施設で作った陶器を差し上げるつもりで紙袋に入れて駅までのバスに乗ったのですが、ここでまたしてもお…

「やぐら」はインド、中国渡来 

鎌倉ちょっと不思議な物語第166回 広辞苑によれば「やぐら」とは「岩石に穴を掘って物を貯蔵しておく倉。また墓所。鎌倉付近に多い」と解説され、矢倉あるいは窟という漢字があてられ、イハクラ(岩倉)の訛りではないかと想像されています。しかしこのよ…

鎌倉の「やぐら」を訪ねて

鎌倉ちょっと不思議な物語第165回鎌倉ガイド協会が主催する「やぐら」探訪シリーズの第3弾に参加しましたので、ここしばらくはその報告をしたいと思います。なお、これから記述する内容は、同協会制作の資料とツアーコンダクターの斉藤顕一氏のコメント…

ビゼーの「カルメン」を観たり聴いたり

♪音楽千夜一夜第58回 ジョルジュ・ビゼーは1875年にモーツアルトと同じ35歳で死んだ。活躍した時代は1世紀近く離れており、その作風も作品の数も違うが、その音楽の純なること、歌の直截さ、そして泉のように汲めどもあふれる旋律の美しさという点…

吉田秀和著「永遠の故郷 薄明」を読んで

照る日曇る日第242回冒頭に懐かしいヴィクトル・ユゴーの詩が掲げてあって、そこからこのフランス語とドイツ語と日本語が入り混じった多声的な語りに加えて、随所に手書きの楽譜が自在に挿入され、もはや小林秀雄の入眠落語を超越した吉田翁独自の音楽と…

鎌倉時代の女性と男性 十二所の歴史と宗教 その3

鎌倉ちょっと不思議な物語第164回 鎌倉時代の民衆の平均寿命はおしなべて五〇歳くらいで比較的長命であった。女性は一六歳で結婚し、二〇歳になればおばあちゃんとなるが、いちばんたいへんな仕事は洗濯だったであろう。当時の衣服の大半が麻や楮の素材で…

鎌倉の廃仏棄釈 十二所の歴史と宗教 その2

鎌倉ちょっと不思議な物語第163回明治初年の廃仏毀釈によって鶴岡八幡宮寺の大伽藍や仏像や宝塔はことごとく廃棄され、価値ある仏像や経文の多くは市内や遠くは浅草寺にまで散逸してしまった。先日の中国清朝の彫刻やインドのガンジーの眼鏡と同様、文化…

十二所の歴史と宗教 その1

鎌倉ちょっと不思議な物語第162回地元の十二所公民館に、鎌倉国宝館の三浦勝男氏が来訪され十二所の歴史と宗教について短い講演をされたので簡単に抄録しておこう。まず鎌倉で往時の面影をいまに伝えているのは、ここ十二所と山崎と扇谷の3箇所だけであ…

レイモンド・カーヴァー著・村上春樹訳「滝への新しい小径」を読む

照る日曇る日第241回五〇歳で亡くなった米国の作家の遺作詩集である。ガンで五〇歳の男が死ななければならない、ということはどういうことか、次の詩を読むと分かる。「若い娘」 思わずたじろいだ出来事をみんな忘れてしまおう。 室内楽にかかわることも…

小松祐著 小学館日本の歴史「いのちと帝国日本」を読む

照る日曇る日第240回明治時代中期から1920年代までを取り扱う本巻は、通時的叙述ではなく、「いのちと戦争」、「いのちとデモクラシー」、「いのちと亜細亜」という3つの主題ごとに共時的にテーマを設定して人民と帝国の相関関係を骨太に追っている。…

橋本征子著・詩集「破船」(2004年刊)を読んで

照る日曇る日第239回 「夏の呪文」「闇の乳房」に続く最新の第3詩集が本書である。 北の国で積み重なった幾星霜が、この詩人の思想をさらに深く沈潜させたのだろうか、その詩的世界はますます豊穣な収穫を生み出しているようにみえる。例えば「吹雪がぴ…

橋本征子著・詩集「闇の乳房」(1999年刊)を読んで

照る日曇る日第238回 北の女流詩人による第2詩集である。6年前に刊行された処女詩集「夏の呪文」に比べると、さらに発想が柔軟なものとなり、詩的言語はいっそう自在に駆使されるようになる。詩人は、目の前にあるもの、たとえば、にんじん、さくらんぼ…

鈴木和成著「ランボーとアフリカの8枚の写真」を読んで

照る日曇る日第237回 最近詩人アルチュール・ランボーの研究は、彼が37年の短かい生涯の中でアフリカで過ごしたおよそ10年間の後半生における生活と文学活動に集中している感がある。17歳でパリ・コンミューンに加担し、19歳で「地獄の季節」を出…

網野善彦著作集第4巻「荘園・公領の地域展開」を読んで

照る日曇る日第236回 本巻の月報で犬丸義一が若き日の網野について書いている。1949年4月犬丸が東大に入学したとき、網野は歴研を代表して挨拶した。 この年は1月の総選挙で共産党の議席が一挙に35に伸張し、東大生の支持政党の第一位が共産党に…

橋本征子著・詩集「夏の呪文」(1993年刊)を読んで

照る日曇る日第235回詩人が「あたしは」と呪文のようにつぶやくとき、地軸は停止し、世界は沈黙し、失われた遠い日の思い出が一挙に蘇る。―とつぜん春になったので、ビルの最上階の歯科医院は歯槽膿漏の患者であふれ、エーテルの匂いのする若い歯科医はう…

半藤一利著「幕末史」を読んで その2

照る日曇る日第234回 明治6年の征韓論騒動は、林子平、会沢正志斎、吉田松蔭、橋本佐内、藤田東湖など多くの幕末の憂国の志士達の衣鉢を継いだ西郷明治政府が引き起こした国権拡張運動だが、 大久保などの非征韓論派に反対にあって引きずり降ろされた年…

半藤一利著「幕末史」を読んで その1

照る日曇る日第233回東京生まれの東京育ち、しかも祖父が戊辰戦争で官軍と奮戦した越後長岡藩出身という著者ならではの、じつに面白くてとても為になる幕末・明治10年史である。当然ながら基本的には薩長嫌いの著者は、漱石や荷風同様、明治維新を「維…