蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

2008-05-01から1ヶ月間の記事一覧

2008年皐月茫洋詩歌集

♪ある晴れた日に その28 そんなの関係ねえとパンツ男が叫ぶたび叫ぶたびにぷつんと切れる世界とのつながり自動的に人間にピントが合うという新型カメラを私は買うまいまずは蝶、次には花と水と土この順番にフォーカスしなさい講義ではスーツを着てくださいね…

1945年8月の鎌倉文士

鎌倉ちょっと不思議な物語130回先日、鎌倉文学館主催の極楽寺・稲村ガ崎周辺の文学散歩の驥尾に付して歩きました。長く鎌倉に住んでいますが、極楽寺を訪問したことはあるものの、その近辺を歩いたことなぞ一度もないので道々もの珍しいことばかり。あちらこ…

滑川に落ちた愛犬ムク 

遥かな昔、遠い所で第72回&鎌倉ちょっと不思議な物語129回 きのう滑川を歩いていて、思い出したことがあります。今を去る10年ほど前、愛犬を散歩させていた私は、ふと油断した隙に、年老いて既にそこひを病んで盲目になっていたムクを、あろうことか足元の…

滑川を歩く

♪バガテルop58&鎌倉ちょっと不思議な物語128回昨日の続きで極楽寺界隈の話を書かなければいけないのですが、今日の午後、滑川(なめりかわと呼びます)にハヤの群れが気持ちよさそうに泳いでいたので、それをデジカメで撮影しようと身を乗り出した途端に、…

極楽寺を訪ねて

鎌倉ちょっと不思議な物語127回極楽寺は真言宗の名刹である。正嘉年間1257-59にひとりの老僧が深沢に草堂を建て、阿弥陀如来像を安置して極楽寺と称していた。老僧亡き後正元元年1259年に北条義時の三男重時がそれを現在地に移したといわれている。弘長元年1…

萩原延壽著「自由のかたち」を読んで

照る日曇る日第125回60年代のわが国にはまだ革新勢力が存在し、時折保守勢力を脅かすに足る活動を行なっていた。そしてここには、もしも彼らがもう少し政治家として有能で国民の心をつかむ技術を備えていたら、その後わが国は今日とは180度異なる道を歩んで…

めまぐるしい所有権者の変遷

鎌倉ちょっと不思議な物語126回 十二所物語その3徳川時代の十二所の地主は誰だったのだろう。再び「十二所地誌新稿」によれば、村高67貫181文のうち64貫156文を分けて十二所村および山之内の建長寺・東慶寺などの社寺領に寄付し、残る3貫25文を徳川氏直轄と…

ミハイル・ブルガーコフ著水野忠夫訳「巨匠とマルガリータ」を読む

照る日曇る日第125回面倒くさいので帯の腰巻から引用すると、モスクワに突如出現した悪魔の一味が引き起こす謎に満ちた奇想天外な物語が本作である。さらに本屋の惹句によれば、20世紀最大のロシア語作家が描いた究極の奇想小説ということになっていて、ま…

タベルナで食べた

♪バガテルop57&鎌倉ちょっと不思議な物語124回 今日も「イタリアン」の続きです。海からの薫風に吹かれて極楽寺から稲村ガ崎まで歩いたあとで、タベルナ ロンディーノ(TAVERNA RONDINO)というイタリア料理屋さんで妻とランチをしました。TAVERNAというの…

ドナ、ドナ、どーなの

♪バガテルop56昼前に中野坂上の学校に行く。駅前のドナという名前のパスタ屋に入って790円のパスタセットを食べていたら、隣の客が煙草を呑みだした。あわてて店長に禁煙席はどこだと聞いたら、「んなものありません」とかなんとか小さい声でむにゃむにゃ…

鎌倉の1000年

鎌倉ちょっと不思議な物語123回 十二所物語その2十二所の上古の事蹟ははっきりしないが、奈良時代の聖武天皇の御世に藤原鎌足の子孫染谷太郎太夫時定がここ鎌倉に居住し、のちに平貞盛の孫上総介直方がここに住み、源頼義が相模守となってこの地に住した。そ…

どくだみの花

♪バガテルop55&遥かな昔、遠い所で第70回日経の「私の履歴書」に谷川雁の実兄で民俗学者の健一氏がたいへん興味深い回顧録を連載しておられる。氏は熊本県水俣に生まれ育ったが、3歳のときに近所の寒村からやってきた田上トセという当時12歳の子守の思い…

期間限定ワグナーセット

♪音楽千夜一夜第35回たまにはコンサートに行きたいと思うのだが、「音楽の友」などを眺めていてもろくなものがないし、あってもべらぼうな値段であるからしてルンペンプロレタリアートの私にはとうてい懐にそんな余裕がないし、よしんば無理に出かけて行って…

レーモンド・カーヴァー著「英雄を謳うまい」を読んで

照る日曇る日第125回村上春樹氏が翻訳するレーモンド・カーヴァー作品は、いずれも面白く読ませてもらったが、その最終巻であるこの本は、初期の短編や詩、挫折した長編の断片や書評やエッセイやスピーチ原稿などのいわば壮大な寄せ集めで、であるがゆえの面…

♪山から海へドドシシドッド

鎌倉ちょっと不思議な物語122回 十二所神社物語その7 十二所神社の境内には、山ノ神を祀った石祀がある。右側の祠のものは宇佐八幡で、以前林相山の宇佐の宮にあったもの、その左は疱瘡神を祀ったものである。村人たちは疱瘡にかかることを恐れていた。その…

神社と力士

鎌倉ちょっと不思議な物語121回 十二所神社物語その6「十二所地誌新稿」によれば、むかし葉山の森戸神社の祭りに呼ばれた力士が、ついでにわが十二所神社にやってきて相撲を取ったそうだ。そのとき、力士の一人がひよいと手を伸ばしたら稲荷小路(十二所神社…

♪流れよ みこし どんぶらこ

鎌倉ちょっと不思議な物語120回 十二所神社物語その5 神社では当番を決めて毎晩灯明をあげていた時期があったそうだが、その札がいまなお伝えられているそうだ。町内会長さんのお宅にでも保管されているのだろうか?しかし私はなにを隠そう、町内会長も町内…

兎とバラモン

鎌倉ちょっと不思議な物語119回 十二所神社物語その4 神社のきざはしを昇って向拝正面を遠望すると、そこには1匹の兎が彫られているのだが、この兎について「十二所地誌新稿」は中村元氏の「東西文化の交流」に出てくる次のような説話を引用して解説している…

川尻秋生著「揺れ動く貴族社会」を読む

照る日曇る日第124回17年間千葉博物館で学芸員を務めていた元昆虫少年によるこの平安時代概説は、貴族たちの和歌を歴史資料として活用したり、当時の天変地異の影響を論じたり、武士の残酷さを実証したり、考古学・歴史地理学・民俗学・植物学などの学識を自…

十二所神社物語その3

鎌倉ちょっと不思議な物語118回さて十二所神社は、神を祭る本殿と拝殿から成り、鳥居・神楽殿も備えたこぢんまりとした神社である。境内は森の麓にあり、春夏秋冬お宮としての感じが好ましい。鎌倉石によって築かれた神寂びたきざはしも格調があるが、その下…

祭礼の夜

鎌倉ちょっと不思議な物語117回十二所神社を現在地に移す仕事をしたのは、明王院の住持恵法法印で、神社棟札は明王院に伝えられている。例祭は毎年9月8日から10日にかけて行なわれる。祭日には大人と子供のおみこし2基が出た。私は神社の隣の借家に住んでい…

十二所神社物語その1

鎌倉ちょっと不思議な物語116回 十二所神社はもとはおなじ十二所の光触寺の境内にあって、十二所権現と称していた。紀州熊野神社本宮に宗祖一遍聖人がおこもりして宗旨を開いたので、時宗寺院では本宮を勧請して祀った。その一遍ゆかりの光触寺の十二所権現…

十二所物語

鎌倉ちょっと不思議な物語115回 私が住んでいる鎌倉の十二所は、鎌倉時代には「山之内庄」「大倉郷」などと称したこともあったらしい。里人たちによると字の家数がたまたま12だったので十二所となったとか、当所の小字に和泉谷、太刀洗、七曲、タタラヶ谷、…

鎌倉ちょっと不思議な物語114回

十二所の「大江稲荷社」拝観これは前回に紹介した大江広元邸の屋敷神であったものがのちに近所の稲荷小路に移転してここに安置されたと「十二所地誌新稿」は伝える。大江広元は、自らの出身地である京都ゆかりの伏見稲荷を自邸に祭り、初午の日に祝っていた…

サガン著「悲しみよ こんにちは」を読んで

照る日曇る日第123回ここにやや通俗的ではあるがお洒落でダンディな中年の独身男がいる。そのばついちのパリジャンは次から次に女を取り替えてきままな第2の青春を満喫しているのだが、彼には目の中に入れても痛くない一人娘がいて、2人は親子の域を超えた愛…

デュラス著「愛人 ラマン」を読んで

照る日曇る日第122回「太平洋の防波堤」が著者の心のポジ小説であったとすれば、これはその同じ小説のほぼ同じシーンをもういちどえぐった自伝的ネガ小説とでもいうべきものだろうか。ふたたび仏領ベトナムの地にさすらう孤独な母と二人の兄、さうして作者を…

デュラス著「太平洋の防波堤」を読んで

照る日曇る日第121回どことなくブロンテの「嵐が丘」を思わせる小説である。ただ「嵐が丘」がヒースが冷たい風に吹かれる荒涼たる北の国を舞台にしていたのに対して、こちらはモンスーンとタイフーンが太平洋から押し寄せるインドシナ半島の南の国の物語とい…

♪ある晴れた日に その27

朝比奈峠で春型のクロアゲハがたくさん飛翔していた。春風に乗ってやわらかく飛んでいた。♪黒揚羽五月一日生まれなり 茫洋 ♪われに来てしばし物言ふ黒揚羽 茫洋