蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

2013-08-01から1ヶ月間の記事一覧

西暦2013年葉月蝶人花鳥風月狂歌三昧

ある晴れた日に 第150回 青山の独り暮らしのマンションで骨とスープになりしモデルよ 「お世話になりましたみなさまの幸福を祈ります」と書き遺し大仏次郎息絶えたり 人は死ぬと寂しいよねえと呼びかける長男に誰も答えぬ小林理容室 今日中にドストの「貧…

アンソニー・ハーヴェイ監督の「冬のライオン」をみて

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.552 ピーター・オートゥールの老いたるヘンリー王とキャサリン・ヘプバーンのやはり老いたる王妃が、3人の息子の王権相続と若い愛人を巡って知恵の限りを巡らし、愛憎の限りを尽くし、火花を散らして戦う政治人世…

ビレ・アウグスト監督の「マンデラの名もなき看守」をみて

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.551 ネルソン・マンデラは30年近く牢獄に入れられていたが、そのかんよくも殺されなかったものだ。南アの悪名高きアパルトヘイト政策を解消させるために生涯に亘って闘い続けたマンデラはもちろん偉大だが、強権…

『短歌』編集部編「鑑賞日本の名歌」を読んで

照る日曇る日第616回&バガテル-そんな私のここだけの話op.170 本書の末尾に大辻隆弘氏が選ばれた短歌が二首並んでいて、複雑な感慨を呼ぶ。 子を連れて西へ西へと逃げてゆく愚かな母と言うならば言え 俵万智 逃げないんですかどうして? 下唇を噛む(ふ…

リチャード・エア監督の「アイリス」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.550 若き日のアイリスにケイト・ウィンスレットが出ている2001年製作の英国映画。ヒロインとヒーローのカッコ良さげな悲劇よりも、彼らの傍にいて彼らをもっと愛していたはずの男女の哀しみに想いを致したくな…

サム・メンデス監督の「レボリューショナリー・ロード」を観て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.549 外見からはなにひとつ苦労がなさそうで万事順調とうつる人にも意外や意外大きな陥穽が隠されているものだ。 ここではないどこか、ならきっと達成されたはずの成功や幸福を生涯にわたって夢見たり、それが叶えら…

中上健次著「中上健次集7 千年の愉楽、奇蹟」を読んで

照る日曇る日第615回&「これでも詩かよ」第19番&ある晴れた日に第149回 偉大なる路地の作家に、露地の歌にて返礼す。 月見町に月が出た ハア、どっこいせえ、こらっせ、とこどっこい、ちょいのおちょいのちょい、月見町にでっかい、まあるい月がで…

クラッシュ!

「これでも詩かよ」第18番&ある晴れた日に第148回 ポール・ハズキ監督の「クラッシュ」という映画の感想文をSNSにアップしたら、親切な読者の方から、「ハズキではなく、ハギスではないのか。あなたは先日もテリー・ミリアス監督をミリアムと誤って書…

ポール・ハギス監督の「クラッシュ」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.548 老いた父親の介護に明け暮れ、他民族の進出がアメリカ人の職場を奪っていると確信する警官マット・ディロンが、救ってしまうのは昨日自分が職務を違反して暴行を加えた有色のインテリ女性。 その人種差別主義が…

独Documents盤「Die sconste Ballettmusik」10枚組CDを聴いて

音楽千夜一夜第313回 お馴染み独Documentsからの1枚100円の廉価盤バレエ名作選である。 ほとんどがモノラル録音であるが、ストコフスキーやモントゥーの「白鳥の湖」やフリッチャイ&リアスのストラビンスキー、アンセルメ&スイス・ロマンドの「春の…

ジョン・ミリアム監督の「風とライオン」を観て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.547 時は20世紀の冒頭、「ライオン」はモロッコの砂漠を駆け抜けるアラブの怪傑ハリマオ、「風」は植民地闘争の全世界をつむじ風と共に制覇する米国の大統領セオドア・ルーズベルト。 この2人が、誘拐されたキャ…

エドワード・ドミトリク監督の「ワーロック」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.546 悪党どもがのさばるワーロックの小さな宿場町に集結したヘンリー・フォンダ、アンソニー・クイン、リチャード・ウィドマークの3人が、女と友情と正義とを巡ってしのぎを削って争い戦う。こういうのを本物の西…

佐藤優著「同志社大学神学部」を読んで

照る日曇る日第615回 外務省に入って大騒動をやらかした著者の青春学問哲学飲酒大活躍大発展回顧録です。 本書には、「フィールドはこの世界である」と宣言するチェコの神学者フロマートカの神学思想の影響を受け、教授や先輩たちの「大学に残れ」という…

ティム・バートン監督の「エド・ウッド」を観て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.544 資金、納期、スタッフ、どれをとっても最悪の環境の中でそれでもなんとかハチャメチャの作品を撮りおおせていく三文映画監督の生涯を面白おかしく描いて観衆を楽しませてくれる映画だ。 全篇フィクションかと思…

ヘルマ・サンダース=ブラームス監督の「クララ・シューマン愛の協奏曲」を観て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.543 1850年にドレスデンからデッセルドルフに移住した頃のシューマン夫妻と若きブラームスの交渉を描いている。ヒロインのクララは実に美人で豊かな胸の持ち主のように描かれているので、画面を眺めているだけ…

アンソニー・マン監督の「グレン・ミラー物語」を観て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.542 タイロン・パワーが主演したピアニスト、デューチンと同様、ジェームズ・ステュチュアート扮する主人公も哀しい結末を迎えるという点では共通している音楽映画です。 前者ではショパンの夜想曲が、ここでは「イ…

ジャン・クロード・マルゴワール指揮「モーツアルト・オペラ集」を聴いて

音楽千夜一夜第312回 パリ管弦楽団でしがないイングリッシュ・ホルン奏者を務めていたマルゴワールが1966年、26歳のときに設立したのが王室大厩舎・王宮付楽団という名前だけは立派な古楽器オーケストラ。 このオケを自らが指揮してモーツアルトの…

いいね。ぐあんばろう。

「これでも詩かよ」第17番&ある晴れた日に第147回 朝も夜中も鳴くアブラゼミ、いいね。ぐあんばろう。 40年振りに出会ったゴマダラチョウ、いいね。ぐあんばろう。 道路の水を白いヨットのように並んで吸っていたルリシジミとウラギンシジミ、いいね…

神奈川近代美術館鎌倉で「松田正平展」をみて

茫洋物見遊山記第135回&鎌倉ちょっと不思議な物語第292回 「陽だまりの色とかたち」と副題されたこの展覧会は、山口県の宇部をベースに活躍し、つい最近亡くなった油彩の作家の個展である。 もうしばらくすればこの風光明媚な名美術館も無くなりそう…

午後3時の降臨

「これでも詩かよ」第16番&ある晴れた日に第146回 2013年8月11日午後2時、我が家の玄関前の気温は、摂氏40度に達した。 夏の気温が低く、エアコン無しで過ごす家庭が多いこの地区では恐らく最高記録、いな最悪の記録だ。最悪の記録。 おまけ…

鎌倉八幡宮の「雪洞祭」をみて

茫洋物見遊山記第134回&鎌倉ちょっと不思議な物語第291回 毎年鎌倉では、立秋の前日から9日までの間、鎌倉市内および近辺在住の文化人らの書画をぼんぼりに仕立て、約400点が展示されます。 その期間中、夏越祭・立秋祭・実朝祭がとり行われるのです…

プルースト著・吉川一義訳「失われた時を求めて5ゲルマントのほう1」を読んで

照る日曇る日第614回 スワンの娘ジルベルトに振られた主人公が一転して一方的に好きになるのは、ゲルマント公爵夫人である。美人なのか腐美人なのかも良く分からないそんな年増に惹かれてゆく心情は、私たちにはさっぱり理解できないのであるが、むしろ公…

横浜港の見える丘公園内の「大仏次郎展」をみて

茫洋物見遊山記第133回 大仏次郎は幸福な人だ。同じ鎌倉の文士であった小林秀雄の居宅の跡はかけらも遺されていないのに、彼の場合は本宅こそ取り壊されたものの、その向かいにあった別邸は現存して公開されており、あまつさえ横浜の県立文学館の一角に立…

リチャード・マーカンド監督の「白と黒のナイフ」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.534 「危険な情事」の頃はこの女優大丈夫かいなと前途多難を思わせたが、テレビドラマ「ダメージ」で見せた老練弁護士の演技はじつに見事であった。 そのグレン・クローズがこの映画でも弁護士役を演じて出版社社長…

ジャレド・ダイアモンド著「昨日までの世界下巻」を読んで

「これでも詩かよ」第15番&ある晴れた日に第145回&照る日曇る日第613回 ジャレド・ダイアモンドって「サンタモニカの風」みたいな爽やかなアメリカン・シティボーイ。湿度が高い極東のうざったい歴史屋とは裏腹に、見晴らしの良い台地に立って世界…

スコット・ヒックス監督の「シャイン」を観て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.533 はじめはもしかすると知的障碍のあるピアニスト(ジェフリー・ラッシュ)の奇妙な寓話的フィクションかと思って眺めていたが、最後に主人公夫妻への謝辞がクレジットされたので、どうやらほんとうの話の映画化…

県立神奈川近代文学館の「中原中也の手紙」展をみて

茫洋物見遊山記第132回 己を高く持し、誰にでも狂犬のように喰らい付き、容易に人の懐に飛び込まなかった孤高にして倨傲の詩人、中原中也。そんな彼がほとんど唯一こころを許した親友が安原喜弘であった。 本展にはその生涯の同伴者に向けて詩人が折に触れて…

横浜美術館の「プーシキン美術館展」をみて

茫洋物見遊山記第131回 ロシアが震災でいったんひっこめたコレクションが、ようやく横浜にやって来た。作品は66点とそれほど多くはなく、内容も玉石混交であるが、ゴッホの「医師レーの肖像」とアンリ・ルソーの「詩人に霊感を与えるミューズ」をこの目の…

サム・ペキンパー監督の「ワイルドバンチ」をみて

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.530 大いなる夢と野望の若き日はたちまちにして夕日の如く傾き、人生の残照身にしむ老残の時を迎えた群盗たちが迎えた最期のドンドンぱちぱち。さながら夏の夜の夢の花火大会のように盛大に描かれている。 本作では…

「フルトヴェングラー・コンプリートRIAS レコーディングス」を聴いて

音楽千夜一夜第311回 独逸のレーヴェル、アウディーテが、西ベルリンのリアス放送局に眠っていた巨匠の戦後のライヴ録音を12枚のCDとボーナスCDに収めている。 曲目は彼が得意としたベートーヴェン、ブラームス、ワーグナーが中心であるが、シュー…