蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

2010-09-01から1ヶ月間の記事一覧

西暦2010年長月茫洋花鳥風月人情紙風船

♪ある晴れた日に 第80回 歌ひとつ詠まずに旅から帰りけり油蝉リュリュリュ晩夏流る家守棲む家に寝そべる楽しさよ居待月太鼓叩いて笛吹いて一夜明け一億沈思の秋となるイチローが一日一本打つように生きること魔法使いの棒一閃オオウナギぐるりぐるりこの臭い…

梟が鳴く森で 第2部たたかい 第30回

bowyow megalomania theater vol.1 そうして、それから夜になりました。ひとはるちゃんは、だいぶ発作が治まりましたが、いぜんとして熱が高く、あれからずっと洋子と文枝が看病しています。でもまだ意識は戻りません。僕は一人で外へ出ました。おそろしいほ…

今井彰著「ガラスの巨塔」を読んで

照る日曇る日 第376回かつてNHKの辣腕ディレクター&プロヂューサーとして「プロジェクト?」などの人気番組を企画制作した人物による実録風小説です。「プロジェクト?」はその音楽の変態的誤用や仰々しいナレーション、出演者の異様な興奮と突然の涙が…

光明皇后1250年御遠忌記念「小泉淳作展」を見る

茫洋物見遊山記第38回 日本橋高島屋で開催されていたご近所の絵描きさんの展覧会へ行ってきました。今年86歳になられた小泉画伯が平成遷都1300年、光明皇后1250年御遠忌を記念して東大寺の本坊に奉納された40面の襖絵が中心となった個展です。会…

「車谷長吉全集第2巻」を読んで

照る日曇る日 第375回 車谷長吉は偏見と断定の人である。「女性の存在理由は男に向かって股を開くことにしかない」と言いきってはばからない。車谷長吉はど阿呆の人である。大概の作家や評論家は自分がそうとうの叡智の人であるとうぬぼれているから、そ…

ソニー超廉価盤「ヴァン・クライバーン集7枚組CD」を聴く

♪音楽千夜一夜 第165夜まあなんというか全国の学友諸君、こうやって毎日3回もごはんが食べられて戦争にも駆り出されず、さしたる病気もせず、日々是好日とばかりに生きながらえていられるのはうれしいことであり、こうして画面に向かえば誰も読んでいな…

梟が鳴く森で 第2部たたかい 第29回

bowyow megalomania theater vol.1 それから3時間以上もたって、午後の2時半くらいだったでしょうか。ひとはるちゃんが血だらけになって、服もズタズタに破れて、はあはあ肩で息をしながら、ワアワア泣きながら帰ってきました。「やられた、やられた、のぶ…

福田和也著「現代人は救われ得るか」を読んで

照る日曇る日 第374回著者は私のように粗放な脳味噌の持ち主と違って、おそらく非常に頭が切れる人なのでしょう。華麗なレトリックを凝らした超絶的美文?と該博な知識と教養を、これでもか、これでもか、とみせびらかすように駆使して、ただでさえ分かり…

梟が鳴く森で 第2部たたかい 第28回

bowyow megalomania theater vol.1 11月4日 曇朝起きるとなんだか様子が変です。虫が1匹も鳴いていないし、カラスもスズメも一羽もいません。いつもは家の周りをカアカア、チュンチュンと飛び回っているのに……。向こうのススキの銀入りの穂先が風もないのに…

今夜もウナギはダンス、ダンス、ダンス――滑川夜話最終回

バガテルop132&鎌倉ちょっと不思議な物語第228回この生命力みなぎる生物についての雑文を書いてからちょうど1か月が経ちましたので、後日譚の後日譚を書いておきましょう。たしか前回は近所の植木屋のKさんが、カーバイドを入手したらそれを駆使し…

グルダの「モーツアルト・コンプリート・テープ」全6枚組を聴いて

♪音楽千夜一夜 第164夜テープといってもCDです。フリードリッヒさんがひそかに自宅とかで1956年から97年にかけてこっそりテープレコーダーに録音しておいたやつを、彼の死後息子のパウル君が発見して、それを独グラモフォンから売り出すようにし…

ワーナー盤「バッハ大全集」を聴いて

♪音楽千夜一夜 第163夜ワーナーミュージックといっても実際はテルデックとエラートレーベルによる全50枚CDによるコンンピレーションです。またしても1枚243円というロウプライスに目がくらんで買ってしまいましたが、さすがは音楽の王者J・S・…

ソニー盤「ロベルト・シューマン全集」を聴いて

♪音楽千夜一夜 第162夜この頃狂ったように廉価版の大安売りを全世界で展開しているソニーグループのシューマン全集25枚組。一枚当たり258円ということなので、やはり買わずにはいられませんでした。交響曲はレヴァイン&フィラデルフィア菅という珍…

鎌倉国宝館で「国宝鶴岡八幡宮古神宝展」を見物する

茫洋物見遊山記第37回&鎌倉ちょっと不思議な物語第227回秋です。ようやく萩の花が咲きほころびはじめた国宝館を訪ねてみました。鶴岡八幡宮の古いコレクションが並べてありましたが、ほとんどこれまでに見たものばかりで掘り出し物はありませんでした。…

梟が鳴く森で 第2部たたかい 第27回

bowyow megalomania theater vol.1 公平君と洋子と文枝と僕も、のぶいっちゃんを助けようと手に手に近くに転がっていた石ころや棒ぎれを持って、おまわりの頭や顔や手や足をてんでにぶん殴りました。思いがけない逆襲に驚いたおまわりは、びっくり仰天、慌て…

梟が鳴く森で 第2部たたかい 第26回

bowyow megalomania theater vol.1 その途中、寒椿や水仙で有名な龍泉寺の上の山道にさしかかった時、一人の警官に見つかってしまいました。「おい、こら、ちょっとお前たち、待て! 待つんだ!」と怒鳴りながらすごいスピードで龍泉寺に下りる道を駆け登っ…

梟が鳴く森で 第2部たたかい 第25回

bowyow megalomania theater vol.1 11月3日僕たちが星の子学園を脱走してから今日で3日になります。きっとはみんなが僕たちのことを心配して探し回っていることでしょう。きっと大捜索隊があちらこちらを探しているに違いありません。僕もお母さんや純く…

開高健著「夏の闇・直筆原稿版」を読んで

照る日曇る日 第373回あまりにも暑いので、開高健の代表作と称されているこの本を、そのタイトルに魅せられて読んでみました。お話としては作者を思わせる肥厚な主人公が夏のパリで「私の玉門香ってる?」なぞとほざくむっちりとした肉体の持ち主(ただし…

川西政明著「新・日本文壇史第3巻昭和文壇の形成」を読んで

照る日曇る日 第372回この巻では例によって芥川龍之介、菊池寛、川端康成、中原中也、小林秀雄、そして室生犀星と萩原朔太郎の私生活と女性関係が顕微鏡的視野でこれでもかこれでもか、と映し出され、精査されます。例えば芥川の巻では、秀しげ子からあな…

加藤典洋著「さようなら、ゴジラたち」を読んで

照る日曇る日 第371回著者の「敗戦後論」以降のいくつかの論文を、ここでまとめて読むことができました。戦前や戦中派にとっては第2次大戦の悲劇から受け取った教訓はそれなりに身に染むたぐいのものでしょうが、戦後生まれ、とりわけ10代、20代の戦…

梟が鳴く森で 第2部たたかい 第24回

bowyow megalomania theater vol.1 そしたら突然公平君が洋子から僕を引き離してチークダンスを踊り始めました。僕が呆然としていると、文枝が僕の腕を取って全身を寄せてきたので、僕は文枝とチークダンスをしました。洋子もいい匂いでしたが、文枝も洋子と…

綿貫智人著「リストラなう!」を読んで

照る日曇る日 第370回今年の3月上旬、出版準大手の光文社の早期退職募集に手を挙げた45歳の編集・宣伝・営業経験者たぬきち氏のリストラをめぐる実況中継記録です。ブログで綴られた迫真の内部暴露的ドクメントが業界関係者のみならず全国の労働者諸君…

橋本治著「リア家の人々」を読んで

照る日曇る日 第369回 シェークスピアのリア王の悲劇を軽く踏まえてはいるが、作者は、娘に離反されていく明治生まれの文部官僚一家の運命を描きながら、改めて私たちにとって戦後とは何であったか、を自問自答しようと試みている。 戦時中初等教育の管轄…

EMIの「マーラー全集16枚組」を聴いて

♪音楽千夜一夜 第161夜 交響曲は1番がジュリーニ&シカゴ響、2番がクレンペラー&フィルハーモニア管、3番がサイモンラトル&バーミンガム市響、4番がホーレンシュタイン&ロンドンフィル、5番がクラウス・テンシュタット&ロンドンフィル、6番がバ…

グレン・グールドの「ベートーヴェン録音6枚組」を聴いて

♪音楽千夜一夜 第160夜グールドのバッハについては「吉田秀和翁称揚以後」は、それまで無視していたあほばか評論家も含めて猫も杓子も絶賛の嵐だが、その他の作曲家の演奏の是非についてはほとんど語られない。わずかにモーツアルトのソナタの異常に遅い…

トマス・ピンチョン著「メイスン&ディクスン」を読んで

照る日曇る日 第368回この万年ノーベル文学賞候補作家の作品について、格別面白いとか内容が深いとか文学史的な意義があるとか思うたことは一度もない。ないのになぜこうやってつらつら紙面に眼をさらし続け、唐人いな米人の寝言に耳を傾けているかという…

リヒテルのEMI録音全集を聴いて

♪音楽千夜一夜 第159夜多くのピアニストたちと違ってリヒテルというひとは歳をとるほどに凡庸な演奏家になりさがっていったのではないだろうか。彼の晩年にヤマハの凡庸なピアノで蝋燭の明かりの下で聴かされたチャイコフスキーの3流の小曲集などは、曲…

島田雅彦著「悪貨」を読んで

照る日曇る日 第367回政治的経済的に衰退期に入った二等国の内部では退嬰的な気分が蔓延しているが、なかにはそこからの反転攻勢を夢見る人たちも当然出現するわけで、本書の主人公は理想主義的な人道主義とエコロジー&地域通貨に基づく共同体「彼岸コミ…

カルロス・クライバー指揮「薔薇の騎士」を視聴する

カルロス・クライバー指揮「薔薇の騎士」を視聴するカルロス・クライバー指揮「薔薇の騎士」を視聴する♪音楽千夜一夜 第158夜 これはウイーンではなくミュンヘンでのバイエルン国立歌劇場での1979年初夏のライブ収録です。まず演出ですがオットー・シ…