蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

2008-07-01から1ヶ月間の記事一覧

2008年文月茫洋詩歌集

♪ある晴れた日に その31現実を知れば知るほど身軽に動けぬこの矛盾をいかにすべきや わが名と同じ亡羊という歌人を見出したり致し方なく今日よりは茫洋とせむ Only connectただつながれといいしは英国文人E.M.フォスター かまくらのはちまんさまのげんじいけ…

安田次郎著「走る悪党、蜂起する土民」を読んで

照る日曇る日第142回足利尊氏の執事として権力をほしいままにした高師直は、四条畷の激戦で楠木正行を戦死させ、一時は尊氏の弟直義が逃げ込んだ尊氏邸を大軍で十重二十重に取り囲んだほどの勢いを見せた。師直は夜な夜な貴族の家に忍び込んで評判の娘を誘拐…

続々 網野善彦著作集第17巻「日本」論を読んで 

照る日曇る日第141回 「百姓」とは文字通り百の職業・職種の民を指すのに、いつのまにやらそれが「農民」だけを意味し、都市の商工業者や漁民や山民を排除し、あまつさえ差別するようになったと網野は執拗に説いた。たとえば養蚕業者は稲作農耕とは無関係な…

続 網野善彦著作集第17巻「日本」論を読んで

照る日曇る日第140回私たちは、そも何のために、何に忠義立てして、重厚長大な国家という鎧兜を身にまといたがるのだろうか。恐らくは己の魂に自恃がないからだろう。と、これは私のひとりごと。それにしてもこれから日本はどこへ行くのだろう。私たちは日本…

網野善彦著作集第17巻「日本」論を読んで

照る日曇る日第139回日本について考えたり、議論する前に、日本という言葉とその内容にこだわらなければなるまい。「日本」という称号が歴史に初めて登場するのは7世紀末の689年制定の飛鳥浄御原令からであり、ほぼ同じ頃に「天皇」なる称号も誕生したと著者…

プロムス2008はじまる

♪音楽千夜一夜第40回 この夏もロンドン恒例の音楽祭プロムス2008が始まった。第114回目のヘンリーウッド・プロムナードコンサートの開幕である。これからおよそ2ヶ月間毎日毎晩何千何百というコンサートをライブ中継で聞くことができると思うと、なにがなし…

由比ガ浜で泳ぐ

♪バガテルop69 夏は海に限る。昨日も今日も夕方近くの由比ガ浜で消夏した。今年は南風に吹き寄せられた赤い海草が海岸近くにうごめいているのが気になるが、少し沖に出れば消えうせてしまう。昔はこうやって泳いでいると体にボラだのがこつんこつんと体当た…

コクーンの建築

勝手に建築観光31回9/11の同時多発テロ以降も、コクーンニングcocooniningの思想はしぶとく息づいている。私たちはその証左を渋谷東急文化村のシアターコクンや埼玉県大宮市の商業施設コクーン新都心といったネーミング、さらには最近新宿西口に建設中の東京…

コクーンの歴史

ふあっちょん幻論第22回 繭には家蚕と野蚕の2種があるが、そのいずれにも不可思議な効能が秘められていることは古代の中国でよく知られていた。紀元前2600年頃のある日、当時の中国の皇帝の妃西陵が1つの繭を誤って湯の中に落としたことが絹の誕生につながっ…

コクーンの時代

♪バガテルop682001年9月11日の同時多発テロ以降、世界は変わった。 人々の心に疑心暗鬼が忍び込み、お互いがお互いを無邪気に信じることが出来なくなった。信頼と無垢の時代が終焉したのである。ちなみに私の愛犬ムクはこの年の2月に死んでいる。この年の冬…

ミクシィ2周年

♪バガテルop67早いものである。このSNSを畏友やわらかなひかりさんのお導きで開始してから今日で丸2年が経った。その間幾多の見知らぬ友人各位とお近づきになり、かつまた旧友諸賢と久闊を叙す楽しみにめぐり合えたことはまことに近来の快事であった。やわ…

真夏のマーラーこの身に浴びて

♪音楽千夜一夜第39回まだ梅雨だというのにどんどん気温が上がって30度を超えた。まるで真夏のようである。夏にはマーラーの音楽がよく似合う。ニイニイやウグイスが鳴き、カワセミが笑い、赤いカンナが微風に揺れる風景の中で第10番のアダージヨを聞いて…

石井宏著「天才の父レオポルド・モーツアルトの青春」を読む

照る日曇る日第138回&♪音楽千夜一夜第38回メイナード・ソロモンの浩瀚なモーツアルト伝の訳者として知られる石井宏氏が自身の企画と構想によるモーツアルト家の物語全5部の執筆に乗り出した。本書はその序論であるが、天才の父親レオポルトの生誕から天才…

稲村ガ崎の海岸にて

鎌倉ちょっと不思議な物語138回とうとう稲村ガ崎の浜辺に出た。こいらの海岸は年々砂浜が後退し、海水浴ができなくなっているが、サーファーたちはそんなことなど委細構わず年がら年中波に寝そべり、波と戯れている。彼らの中には海難に無知で無関心な輩もた…

薔薇は薔薇

♪バガテルop66むかしペンギンブックスからアメリカ現代詩の要約本がでていた。もちろんまともに読んだことなど一度もなかったが、たまたま開いたページにカニンガムだかカニングハムという人の短い1行詩があって、時折そしていまも印象深く思い出す。それは…

ジョン・アーヴィング著「熊を放つ」を読む

照る日曇る日第136回「ガープの世界」、「ホテル・ニューハンプシャー」の作家ジョン・アーヴィング26歳のデビュー作を読む。ビンテージ・オートバイを無軌道にぶっ飛ばしてあっけなく事故死する青年、第二次大戦のどさくさまぎれに爆死させたはずの不倶戴…

大館次郎の最期

鎌倉ちょっと不思議な物語137回極楽寺から中村光夫旧居跡を過ぎて稲村ガ崎に向かって歩いていくと、もう少しで海に出る左手の窪みに史跡「十一人塚」がある。ここは1333年わずか133騎で鎌倉幕府打倒に立ち上がった新田義貞と幕府軍の激戦場である。同…

阿仏尼の母性愛

鎌倉ちょっと不思議な物語136回三好達治が住んでいた家を過ぎて、江ノ電の踏切を渡ったところに阿仏尼の旧居跡がある。鎌倉時代の歌人阿仏尼は、藤原定家の子為家の側室となったが、息子冷泉為相への資産相続を鎌倉幕府に訴えるために京を下り、極楽寺に程近…

三好達治と極楽寺界隈

鎌倉ちょっと不思議な物語135回鎌倉も完全に市場経済とメディア戦略の格好のターゲットと化しており、昨日までは寂れて道行く犬猫すら見向きもしなかった支那蕎麦屋があほばかテレビ局の番組にたった一度取り上げられただけで千客万来の賑わいを呈しているの…

続1945年の鎌倉文士

鎌倉ちょっと不思議な物語134回1945年昭和20年2月、横光利一の弟子、清水基吉はその作品「雁立」で芥川賞を受賞した。当時清水が転居した亀ヶ谷切通し下には小林秀雄と島木健作が住んでいた。 あるとき小林から正宗白鳥を訪問するので酒を工面できない…

E.M.フォスター著「ハワーズ・エンド」を読む

照る日曇る日第135回若干31歳にしてこのような傑作を書いたE.M.フォスターは栄光の大英帝国が今まさに黄昏ようとする瞬間に立ち会った旧世紀の文人だった。「インドへの道」と並ぶ彼の代表作「ハワーズ・エンド」は、フォスターが巻頭に掲げた有名な序辞…

ある家庭の光景

♪バガテルop66「雨だ雷だ」と大騒ぎするアホ馬鹿天気予報官のおかげで長男は施設に行くのをやめてしまいました。彼は施設が好きだし、普段は朝早くから起きだして行くのを楽しみにしています。いたって勤勉な彼ですが、彼は雷が大きらいなのです。放送局のお…

あるカミキリムシの死

♪バガテルop65昼間榎の葉っぱにとまっていたいまでは希少種となったゴマダラカミキリが、午後道路で車に轢かれて死んでいた。私はその美虫薄命、諸行無常に哀れを感じ、終日心身が深い憂愁に閉ざされるのを覚えた。とつくにのいにしえの死より、向こう三軒両…