蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

由比ガ浜で泳ぐ


♪バガテルop69

 夏は海に限る。昨日も今日も夕方近くの由比ガ浜で消夏した。

今年は南風に吹き寄せられた赤い海草が海岸近くにうごめいているのが気になるが、少し沖に出れば消えうせてしまう。昔はこうやって泳いでいると体にボラだのがこつんこつんと体当たりしてきて心地よかったものだが、最近はあまりそういう体験がなくなった。

けれど海は海だ。
泳いでいると、ここが吾等人類の発祥地であると体感できる。
毎日のように日替わりで起こる人殺し事件も、それらを朝から狂ったように報道しているマスコミも、それらすべての原因をおのれ一人が分かったつもりでしたり顔にロン評しているさかしらな人たちや目前に迫った仕事の締め切りなんぞもすべて忘れはて、寄せては返す相模湾の穏やかな波にぽっかりと浮かんでいた。

それから陸にあがって寝転んでいると、日本人だかブラジル人だかよく分からない若者たち数人がサッカーの模擬戦をしていて危ないので、「馬鹿者、こんなところでサッカーなどやめろ」と注意したが、「済みません、済みません」と口先で言うだけでいっこうにやめない。

良識は無理だとしても、最低限の常識さえ持ち合わせない手合いが日々増殖しているようだ。家に帰ってからピエール・モントウー八〇翁指揮ロンドン響の演奏でラベルを聴いていると、おおいに清了されちまった。

♪アフリカ人も中国人もフランス人もブラジル人も日本人も浮かんでいるよ由比ガ浜の海