蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

2009-09-01から1ヶ月間の記事一覧

西暦2009年長月茫洋歌日誌

♪ある晴れた日に 第66回馥郁と月下美人香る生田山伊東静雄の愛弟子逝きけり横浜の坂の途次なる三差路のビルの上なる2匹の猫かなやい池澤夏樹下らぬ三文小説をセレクトするな古池を埋める儀式を執行し郷里の我が家解体されけり秋風やとぎれとぎれに泣いて…

ウラジミール・ユロフスキ指揮ロンドンフィルで「シンデレラ」を視聴

♪音楽千夜一夜第85回ロンドン郊外のグライドボーンで05年6月に開催されたロッシーニの「シンデレラ」のオペラ公演映像です。初夏のグライドボーンでは、幕間にシルクハットの紳士やドレスの淑女たちが連れ立って緑地を散歩したり、サンドウイッチとワイ…

アーノンクール指揮チューリッヒ歌劇場・シンティルラ管でモーツアル

♪音楽千夜一夜第84回モーツアルトイヤーである06年2月にスイスのチューリッヒ歌劇場で行われた公演です。 アーノンクールはウイーンに帰還するずっと昔から、この地味な歌劇場でバロック・オペラを振り続けていましたが、今回のシンティルラ管弦楽団と…

思い出の庄野潤三

遥かな昔、遠い所で 第85回二夜続けて馥郁と香る月下美人の花が咲きました。庄野潤三の小説を知ったのは、私が結婚して横浜の弘明寺の裏駅のやまのうえの墓地の傍のアパートに住むようになってからのことでした。その頃、弘明寺の裏駅のすぐ傍にはどういう…

メアリー・マッカーシー著「アメリカの鳥」を読んで

照る日曇る日第293回 メアリー・マッカーシーといえば「グループ」を書いたことで知られるアメリカの美人女流作家ですが、「アクセルの城」で有名な批評家エドマンド・ウイルソンの伴侶でもあったとは知りませんでした。別に知らなくても全然構いませんが…

道永のらん著「人間さまの手のひら」を読んで

照る日曇る日第292回都会の中に住んでいるのは人間だけではありません。犬も猫もゴキブリもカラスもタイワンリスも住んでいます。この小説の主人公はそのうち私たちのもっとも身近な存在である猫たちです。主人公「ねず」は生後四か月を迎える前に誰かに…

ムーティ指揮ウイーン・フィルでモーツアルト・ザルツブルク・コンサ

♪音楽千夜一夜第83回モーツアルトイヤーだった06年の1月27日に祝祭大劇場で開催された記念コンサートの実況ライブです。 まずは内田光子の独奏でk503のピアノ協奏曲から始まります。ラ・ローチャなどの演奏では大振りになるこの曲ですが、内田はよく…

映画「イージーライダー」を鑑賞する

闇にまぎれて bowyow cine-archives vol.10 この映画は、2人の若者が広大なアメリカ大陸を東西南北気が向くままにハーレーダビッドソンにまたがって旅する一大遊行観光(光を見る)映画といってもよいでしょう。砂漠もハイウエイも、巨大な岩石も、河川も…

映画「おくりびと」を鑑賞する

闇にまぎれて bowyow cine-archives vol.9滝田洋二郎監督の本作はアカデミー外国語部門賞を獲得したということで大変な話題になりました。先月旅行した出羽三山地方でもこの映画のタイトルを描いたイラストレーターの作品やら「おくりびと饅頭」やらお酒や…

アントネルロ・アルレマンディ指揮東フィルで「トゥーランドット」を

♪音楽千夜一夜第82回 08年10月に新国立劇場で行われたプッチーニの最後のオペラの公演をビデオで鑑賞しました。ドイツからやってきたヘニング・ブロックハウスの演出で、このオペラの舞台はなぜだか1920年代のイタリアに設定されています。村の市…

ジュールス・ダッシン監督の「トプカピ」を見る

闇にまぎれて bowyow cine-archives vol.8異才ジュールス・ダッシンの冒険犯罪喜劇映画の舞台はトルコ・イスタンブールのトプカピ宮殿です。このイスラム文化の精髄を集めた宝物館の目玉であるエメラルドの宝石に鏤められたスルタンの短剣。これをメルナ・メ…

ウルフ・シルマー指揮パリ・オペラ座管で「カプリッチョ」を視聴する

♪音楽千夜一夜第81回リヒヤルト・シュトラウスの最高傑作は、もちろん最晩年に衰えた力を振り絞るようにして書かれたこの世への決別の「4つの最後の歌」ですが、その数年前に書かれた彼の最後のオペラ「カプリッチョ」は端倪すべからざる彼の最高傑作であ…

2つの新聞連載小説を読んで

照る日曇る日第291回今月9日の水曜日に朝日新聞の朝刊に掲載されていた「麗しき花実」という時代小説がわずか201回目の連載で終わりました。高名な画家酒井抱一やその弟子である鈴木其一たちと同時代に生きる蒔絵師の女主人公が、恋と芸術と生活のは…

横須賀とわたし

♪ある晴れた日に 第65回 横須賀には海と空と公園がある。 横須賀には聖ヨセフがある。サイカヤがある。K歯科もラジオ放送局もある。横須賀には小泉親子もいる。そのほかやくざもたくさんいる。横須賀には長崎チャンポンのリンガーハットがある。餃子がつ…

大庭みな子著「魚の泪」を読んで

照る日曇る日第290回大庭みな子さんは夫とともに11年の長きにわたってアラスカのシトカという帝政ロシア時代におおいに栄えた当時の首都で先住民やらロシア人やらアメリカ人やら日本人やらと混じって生活したそうですが、その頃の多国籍な市民との精神…

くたばれスタインウエイ

♪音楽千夜一夜第80回ピアニストが使っているピアノは、私のような音楽の素人でも多少気にならないでもありません。かつてモーツアルトはA.ヴァルター、後期のベートーヴェンはC.グラーフ、ショパンはプレイエル、リストはエラール、ドビュッシーやシュ…

初秋の鎌倉ガイド 後篇

鎌倉ちょっと不思議な物語第206回ちなみに鎌倉にはいろんな飲食のお店があちこちにありますが、きわめて少数の例外をのぞいてみなろくなものはありません。駅の向かいの料亭Tなどは最悪です。テレビで紹介された有名店の大半は、良識ある鎌倉市民が昔か…

初秋の鎌倉ガイド 前篇

鎌倉ちょっと不思議な物語第205回猛暑の白露の翌日はさすがに温度が少し下がって午後遅くには一雨ぱらついた鎌倉です。 今日は完ぺきな無気力状態に陥ったので、この秋、鎌倉を散策してみようとお考えの方ににわか仕込みの一日観光コースを考えてみました…

バガテルop113今日から学校の授業が始まったのですが、完璧に夏休みボケしていて教室のフロアをひとつ間違えてしまいました。クラスの担当の先生と助手の方が教室の入り口で私が来るのを待っていて下さったのですが、私がなかなか姿を現さないのでずいぶ…

「2台、3台のピアノのための協奏曲」を視聴して

♪音楽千夜一夜第79回ワーナーから超廉価で発売されたバレンボイムによるベルリンフィルの弾き振りでモーツアルトの洋琴協奏曲を拝聴しました。不思議なもので今を去る数十年も昔にロンドンでジャクリーヌ・デュ・プレとよろしくやっていた頃の、同じ曲のイ…

吉村昭著「長英逃亡」を読んで

照る日曇る日第289回高野長英は仙台水沢に生まれた江戸時代を代表する洋学者です。彼は武士の身分を捨てて長崎のシーボルトの鳴滝塾で医学と蘭学を学びました。当時英国のモリソン号が来航したのですが、「異国船打ち払いなどの強硬手段を避けて我が国の…

獣道を狂気のごとく走る自転車は凶器なり

バガテルop112&鎌倉ちょっと不思議な物語第204回不肖あまでうす過去半年間足かけ1年半にわたって市内のハイキングコースの車両通行禁止を市当局に訴え続けてきたわけですが、最寄りの朝夷奈切通については下記のような「自転車・バイクの通行は止め…

照る日曇る日第288回昔祖父に連れて行かれた、たしか京都の三条大橋の袂に、いかつい顔立ちの侍が、ものものしく平伏している巨大な銅像を見て驚いたのが、私がこの高山彦九郎という名前を聞いたはじまりでした。 それからずいぶん歳月が経ってしまいまし…

マーク・フォスター監督の「ネバーランド」を見る

闇にまぎれて bowyow cine-archives vol.7衛星放送で「ネバーランド」という映画をぼんやり眺めました。これはピーターパンという有名なキャラクターと彼の仲間たちが住む「ネバーランド」という空想世界を創案したスコットランドの劇作家ジェームス・マシ…

橋本治著「橋本治という考え方」を読んで

照る日曇る日第287回端倪すべからざる作家とは橋本治というような人物をいうのでしょう。「ドラマというのはドラマとして存在するものではなくて、風景そのものの中に存在するこのなんじゃないか」ということだけを言いたくて始まったこの「行雲流水録」…