蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

2014-07-01から1ヶ月間の記事一覧

なにゆえに第7回~西暦2014年文月蝶人花鳥風月狂歌三昧

ある晴れた日に第250回 なにゆえに海でも駅でも喧しい日本人は耳なし芳一 なにゆえに山水電気は倒産したのかとても優れたアンプを造っていたのに なにゆえに被災地からの犬は発作を起こすのかこの世の地獄をその目で見しゆえ なにゆえに「真逆」「目線」…

文化学園服飾博物館で「世界のビーズ展」をみる

ふぁっちょん幻論& 茫洋物見遊山記第154回 この展覧会を一覧すると、ビーズが身近な装飾材料として昔から世界各地のおよそ40カ国で愛用されてきたことがよくわかる。 交易品として珍重されたガラスビーズ「とんぼ玉」、欧州の華やかなビーズ刺繍のドレ…

出光美美術館で「富岡鉄斎展」をみる

茫洋物見遊山記第153回 昔から死んだ祖父が惚れ込んでいた鉄斎をみる機会に恵まれた。 没後90年を記念して開催中の同展をみての感想は、ずいぶん色っぽい日本画を描くもんだということで、それはもちろん普通なら無彩の山水画に遠慮なく色彩をまぶして…

鎌倉国宝館で「平常展」をみる

茫洋物見遊山記第152回 &鎌倉ちょっと不思議な物語第319回 長らく震災対策工事を行っていた鎌倉国宝館がやっと再開しました。近所の源氏池も平家池もはすが満開です。 「平常展」と称しているがこんな呼び方があるのだろうか。「所蔵展」とか、せめて…

クロード・ソーテ監督の「愛を弾く女」をみて

bowyow cine-archives vol.658 才能ある若きヴァイオリニスト(エマニュエル・ベアール)が楽器修理の職人(ダニエル・オートゥイユ)を愛するようになるが、地味で実直に生きる男が、その熱烈な求愛を退け、深く傷つく悲しい話である。 すでに彼女には恋人…

ジャン=ジャック・アノー監督の「スターリングラード」をみて

bowyow cine-archives vol.658 第2次世界大戦の一大メルクマールになったドイツ軍のソ連侵攻とその無残な末路を描くドイツ映画である。 イタリアのリゾートでの能天気な休暇が明けて一転して地獄の三丁目に突撃してゆくある小隊の兵士たちに焦点を当てつつ…

私詩的履歴書~「これでも詩かよ」第93番

ある晴れた日に第249回 40年代、私はひとりの頑是ない赤ん坊。 50年代、私は特性の無いひ弱なひとりの少年。 60年代、私は怒れる学生だった。 70年代、私は従順なひとりのリーマンだった。 80年代、私は会社のために24時間戦う労働者。 90…

東直子編著「鼓動のうた 愛と命の名歌集」を読んで

照る日曇る日第719回 編著者が毎日新聞に6年間連載した愛と命の歌を紹介するエッセイ集です。 セレクトされた短歌のなかで感銘を受けた歌を、いくつか挙げておきましょうか。 鋭い声にすこし驚く きみが上になるとき風にもまれゆく楡 加藤治郎 いきなり…

アンパン、ジャムパン、クリームパン~「これでも詩かよ」第92番

ある晴れた日に第248回 これは去る6月24日に友達の「とうこさん」がおつくりになった歌 ウエストが太りますよといはれつつ夫の楽しきあんぱん買ひ止まず にインスパイアーされて出来上がった拙い詩です。 「とうこさん」ありがとう。 アンパン、ジャム…

「モーツァルトその音楽と生涯第1巻 名曲のたのしみ、吉田秀和」を読んで

照る日曇る日第718回 とこうタイトルを書いただけで、あの懐かしい温厚な声音が耳元に響いてくる吉田秀和翁の番組をそのまま書物に編んだもの。 あの番組のいわば脊梁部をなしていたウォルフガング・アマデウス・モーツアルトの音楽と生涯について、翁が1…

今年はじめての海水浴

鎌倉ちょっと不思議な物語第318回&バガテル―そんな私のここだけの話op.183 去る7月12日の土曜日に息子のリクエストで由比ヶ浜へ行きました。 台風8号が通り過ぎたばかりですし、まだ夏休みに入っていないのにかなり大勢の人たちが浜辺でゴロゴロ転が…

文は音楽~「これでも詩かよ」第91番

ある晴れた日に第246回 「文は人なり」などというけれど、それをいうならむしろ音楽。 どの作家であれ、私たちが耳を傾けているのは 文章の底を流れているさまざまな声音なのだ。 スタンダールは、モザールのオペラ。 「パルムの僧院」はコシ・ファン・ト…

シリーズ牧水賞の歌人たち「小高賢」を読んで

照る日曇る日第717回 本年2月に急逝した小高賢を特集したオールアバウト本を読む。 詩歌の道に暗かった私は、この歌人がどのような人物であり、どんな歌を詠んでいるかも、ましてや講談社の優秀な編集者であったこともなにひとつ知らなかった。この出版…

福田純監督の「野獣都市」をみて

bowyow cine-archives vol.657 大藪和彦の原作で黒沢年男が鉄砲&殺人大好き青年に扮して父親代わりの社長三国連太郎にいれあげるが孤軍奮闘死んでしまうという荒唐無稽なお話の映画です。社長の娘役の高橋紀子の魅力のなさにはあきれる。監督も昔から才能が…

すべての言葉は通り過ぎてゆく 第11回

西暦2014年皐月蝶人狂言畸語輯&バガテル-そんな私のここだけの話op.182 そんなに国益戦争ごっこがお好きなら、中東でも尖閣でもボランティアで突撃してきなさいよ。あんたと幹事長の2人だけで。5/31 大戦の死者を悼むためにあの戦争を肯定するのは論…

「リヒアルト・ストルツマン・クラリネット作品集」全10枚組を聴いて

音楽千夜一夜第332回 ストルツマンのクラリネットは、モザールであろうがプーランクであろうが、常に清く正しく明るく、しかも透明でのびのびとした旋律を奏でる。その点ではちょっとフルートのランパルに似ているのかもしれない。 であるからして、とか…

「丸谷才一全集」第七巻を読んで

照る日曇る日第716回 後鳥羽帝に対する深い理解と愛情に打たれる著者入魂の傑作 私は昔から「万葉集」の晴朗で単純素朴かつ古代的な風韻が大好きで「古今集」やそれに続く「新古今集」、殊に後者のよくいえば知的で洗練された、悪くいえば持って回った小…

石井裕也監督の「舟を編む」をみて

bowyow cine-archives vol.656 三浦しをんの原作は読んだことがないが、その代わりにこの映画を見たが、なかなか面白かった。登場する人物もことごとく壺にはまっているし、私の嫌いな宮崎あおいも意外な好演をみせている。 若いのにこの監督はなかなかやる…

和田誠監督の「真夜中まで」をみて

bowyow cine-archives vol.660 「麻雀放浪記」で邦画界に衝撃を与えた和田誠監督の作品であるが、残念ながらこれはどちらかといえば失敗作だろう。 主人公は真田広之演じるジャズ・トランペッターで、題名になった「ラウンド・ミッドナイト」や「ソーホワッ…

ジャック・ドゥミ監督の「天使の入江」をみて

bowyow cine-archives vol.659 「ローラ」で三嘆させられたジャック・ドゥミが1963年に製作した1時間半にも満たない白黒の仏蘭西映画であるが、私がこれまでにみた5本の指に入る屈指の名作です。 貧しく勤勉な銀行員の青年が、不良の同僚に誘われてル…

和田誠監督の「麻雀放浪記」をみて

bowyow cine-archives vol.658 大学に入って東京に出てきたものの、なぜか世の中に対しても自分に対しても前向きな姿勢になれなかったのは、私の生まれついてのニヒリズムのせいではなく、おそらくなかなかとれなかった微熱のせいではなかったろうか。 私は…

夢は第2の人生である 第17回

西暦2014年卯月蝶人酔生夢死幾百夜 テレビ局に入社した私は、上司の命令で全国津津浦浦を経巡ってその土地に生きる人々の暮らしぶりを紹介する番組を作り続けていたのだが、東京本社の人間はもはやそんな私のことなど忘れ果てたらしく何年経っても音沙汰…

すべての言葉は通り過ぎてゆく 第10回  

西暦2014年卯月蝶人狂言畸語輯&バガテル-そんな私のここだけの話op.181 急ぐ旅ではない。ゆっくり、ゆっくり、歩いていこう。 驚くべきことに、生前の私の愛犬ムクには、不機嫌なときは一瞬もなかった。 言葉に淫した詩歌は、動物園で手淫にふける猿の…

リチャード・アッテンボロー監督の「チャーリー」をみて

bowyow cine-archives vol.657 世紀の名監督チャールズ・チャップリンの生涯をたどる映画で、彼が家族や恋人やアメリカという国や無声映画、ヒトラーやユダヤ人、赤狩りに対して懐いたさまざまな思いや葛藤がよく分かるように描かれているので面白い。 特に…

ロジャー・ミシェル監督の「ノッティングビルの恋人」をみて

bowyow cine-archives vol.656 売れっ子女優のジュリア・ロバーツがロンドンの旅行専門書書店主のヒュー・グラントに恋をして相思相愛の仲になり、色々すったもんだがあったあとでめでたく結ばれるというラブ・ロマンスなり。 ロマンスというても主導権は終…

ポール・オースター著「闇の中の男」を読んで

照る日曇る日第715回 この人も新作が出れば読まずにはいられなくなる、気になる小説家です。それはこの作家が太宰に似て、一生懸命に読者をよろこばせようとするからなのです。 今回はなんでも老人シリーズの最終回ということで、書評家の老人とその娘と…

2001年~2014年のファッション・トレンドを振り返る その11

ふぁっちょん幻論 第91回 13年春夏パリ・メンズコレ=「前へ」希望のイメージ。ランバン、トム・ブラウンなど軽快なスーツや都会的なスポーツウエアなど洗練されたカジュアル感にじむ。 13年春夏イタリア・フィレンツエ「ピッティ・ウオモ」=キートン…