蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

2013-11-01から1ヶ月間の記事一覧

西暦2013年霜月蝶人花鳥風月狂歌三昧

ある晴れた日に第181回 「エッ、僕がノーベル賞貰ったの?」ビッグスさんは携帯を持たない CDを買う人は本も買うがCDを買わない人は本も買わないって知ってました? 世界中でいちばん売れた本はバイブルなんて知ってました? ドストもスタンダールも…

黒澤明監督の「わが青春に悔なし」をみて

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.601 戦前の「京大事件」や「ゾルゲ事件」をもとに描いた黒沢の戦後第1作。原節子が、小津におけるそれとはうってかわって、はじめは処女の如く終わりは脱兎の如き熱演をみせる。 この女優は独特の存在感があるとは…

上野の都美術館で「ターナー展」をみて

茫洋物見遊山記第145回&「これでも詩かよ」第47番&ある晴れた日に第180回 「ターナー、ターナー、ターナー」 ターナー、ターナー、ターナー ターナー、君はおそろしく古臭い。 君はまるで銭湯の書き割りのような絵を描く。 遠近法の三角形で構成さ…

一日に一年

「これでも詩かよ」第46番&ある晴れた日に第179回 朝は春、昼は夏、夕方は秋、夜は冬 ぼくは一日に一年を巡る。 朝は、あけぼの。 昼、ぼくは耕す。 夕べ、ぼくは物想う。 夜、ぼくは眠る。 朝は春、昼は夏、夕方は秋、夜は冬 ぼくは一日に一年を巡る…

エイドリアン・ライン監督の「ナインハーフ」をみて

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.600 アメリカ版80年代ロマンポルノだが、ミッキーローク、キム・ベイシンガーの主人公の男女がアホ莫迦に見えるのが悲しい。セックスの虜になっていろんなまねごとを楽しみながら深間に入りこんでゆくのだが、N…

江戸東京博物館にて「明治のこころ モースが見た庶民のくらし」展をみて

茫洋物見遊山記第144回 モースは江ノ島で三味線貝を採集したり、大森貝塚を発見したアメリカの民俗学者はと思っていたのだが、それだけではなく明治時代に三回も来日して当時の民衆が使っていた品々や衣食住遊休知美にまつわるありとあらゆる道具や商品や…

鎌倉国宝館の「仏像入門」展をみて

茫洋物見遊山記第143回&鎌倉ちょっと不思議な物語第299回 今回は、家族そろっていろいろな仏像を楽しく鑑賞するための入門ガイダンス的展覧会です。 仏像仏像というても広うござんす。最高尊の「如来」からその如来になるための修業を行っている「地…

泉鏡花生誕140年記念「清方が描いた鏡花の世界」展をみて

茫洋物見遊山記第142回&鎌倉ちょっと不思議な物語第298回 今年は泉鏡花の記念年ということでいろんなところでいろんな催しがあるようですが、私が行くのはこの鏑木清方記念博物館のこの展示だけ。 清方は鏡花ととても仲が良くて彼の小説の挿絵を描き…

県立近代美術館鎌倉で「加納光於|色身―未だ視ぬ波頭よ2013展」をみて

茫洋物見遊山記第141回&鎌倉ちょっと不思議な物語第297回 お芸術の秋ということでまだ紅葉には早すぎる近代美術館に足を運びました。 加納光於という作家の名前も作品もどうでもよくて、ただただ間もなく鶴岡八幡宮の圧力にいともたやすく屈して閉館…

半蔵門の国立劇場で「伊賀越道中双六」をみて

茫洋物見遊山記第140回 6代目中村歌右衛門が亡くなり、アホ馬鹿松竹が歌舞伎座を取り壊していらい歌舞伎に行く気がなくなった私ですが、その後優れた役者も下らぬ役者もどんどん死んでいきますし、日本三大仇討のひとつを21年ぶりに4幕7場を通し上演…

山田洋次監督の「男はつらいよ 噂の寅次郎」をみて

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.597 果敢ない美しさを漂わせていた大原麗子もあっけなく死んでしまったなあ。その果敢なさというのは、首筋の皮膚の下を走る静脈がいつもうっすら見えているような、そんな儚さで、まだ存命中なのに美人薄命という…

フェルナンド・メイレレス監督の「ナイロビの蜂」をみて

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.596 アメリカの巨大製薬会社がアフリカの貧民を動物のように駆使して治験を行っている。 という事実を発見した正義感あふれる妻が惨殺された。 ので、英国の外交官の夫が現地に赴き彼女の軌跡をたどろうとする。 の…

松家仁之著「沈むフランシス」を読んで

照る日曇る日第636回 フランシスってベーコン? それともザビエル? と、不思議に魅力的な題名に惹かれて手にとってみたら、なんとフランシス氏の発明にかかる水力発電機の愛称の謂いでした。 これなら私が名付けた青鷺のザミュエル&ベンジャミン母娘や…

鎌倉市川喜多映画記念館で鈴木重吉監督の「何が彼女をそうさせたか」をみて

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.595&鎌倉ちょっと不思議な物語第296回 1930(昭和5)年、世界恐慌の真っ只中に公開され、浅草常磐座で異例の5週間続映という空前の大ヒット。当時の世相の一面を形成するほどに一世を風靡し、タイトルは流行語…

野田高梧・小津安二郎他著「蓼科日記抄」を読んで

照る日曇る日第635回 「蓼科日記」の原本は昭和二九年八月、小津が初めて蓼科高原の野田の別荘「雲呼荘」を訪れた日から書き始められ、昭和三八年一二月の小津六〇歳の誕生日の急死を経て昭和四三年九月野田の死去までの一四年間大勢の人々に依って書き続…

ベンジャミン

「これでも詩かよ」第45番&ある晴れた日に第178回 朝起きて、家の前を流れている小川を見たら、君がいた。 黒く濡れた君の瞳には、午前10時の太陽がにぶく輝いている。 おおベンジャミン、君はいったいどうしたんだ? きのう下流の滑川をたった一人…

ラルフ・ネルソン監督の「野のユリ」をみて

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.593 とかく熱烈宗教人というのは剣呑で、イスラムにしてもキリスト教にしてもすぐに分派闘争を始めて流血の惨事を招くのであるが、東独、チエコ、ハンガリーからやって来たカトリックの修道女たちのおばはんが、パ…

保坂和志著「未明の闘争」を読んで

照る日曇る日第634回 保坂和志選手が書いたこの素敵な題名の本を、まずはネコ大好き、イヌ大好きのあなたにお薦めします。 彼の小説は主体も時制も文法も無視して、彼が心に思い浮かぶ由無事と彼がどうしても書き遺しておきたいと願っている事象の両方を…

鎌倉文学館で「掘辰雄展」をみて

茫洋物見遊山記第139回&鎌倉ちょっと不思議な物語第295回 堀辰男が鎌倉に住んでいたとは知らなかった。 彼はこの地を昭和13年に結核療養で訪れ、翌年から駅前の「おんめさま」や日蓮受難の地のあたりで短い間新婚生活を送りながら「菜穂子」を書い…

ロバート・アルドリッチ監督の「ガン・ファイター」をみて

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.592 原題は「THE LAST SUNSET」で、カーク・ダグラスとロック・ハドソンの宿命の対決を描く。 舞台はメキシコ。ダグラスがハドソンの姉の夫を殺したというので追跡するのだが、ひょんなことから2人とも気の良い牧…

夢は夜ひらく

「これでも詩かよ」第44番&ある晴れた日に第177回 夢で精神を分析するんだと豪語したのは、墺太利代表のジークムント・フロイト選手でしたが、いくら彼の本を読んでもその夢判断の成功例は(大負けに負けて辛うじて1件くらい)で、ほとんど出てきませ…

中上健次集第9巻「重力の都他9篇」を読んで

照る日曇る日第633回 「宇津保物語」は、鞍馬の北山の大樹の「うつほ」に母親と主に棲み、獣に琴を聴かせて育った藤原仲忠という琴の名手が、いつしか摂関政治の頂上に迫ってゆくという下剋上、逆貴種流離譚で、すこぶる読み応えがある。 本巻にはその「…

ヒラリー・スワンク主演監督の「フリーダム・ライダーズ」をみて

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.590 異民族の根強い対立が続くアメリカで教育の現場で、それを解消しようと苦闘する女教師の物語で、はじめは作り話かと思っていたら、最後に実在の人物と分かって驚いた。 フリーダム・ライダーズといえば60年代…

ロブ・ライナー監督の「最高の人生の見つけ方」を観て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.589 ジャック・ニコルソンとモーガン・フリーマンという2人の芸達者が、死期の迫った経営者と自動車修理工を演じて、その見事な死にざまを堪能させる。 死の宣告を受ければ戦々恐々、あるいは唯々諾々として病院や…

根岸吉太郎監督の「ヴィヨンの妻」をみて

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.588 太宰の原作を読んだのはもう大昔なので、この映画がそのいぶきをどれくらい正確に伝えているかが分からず、さきほど再読してみましたが、これは作家が酒でも飲みながら一気に口述筆記したもので、べつにどうと…

斎藤武市監督の「ギターを持った渡り鳥」をみて

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.586 石原慎太郎と同様、石原裕次郎も嫌いだが、小林旭は好きだ。巨人よりも阪神のほうが好きというようなもんかなあ。 長すぎる映画は嫌いだが、短い映画は好きだ。大人より子供が好きというようなもんかなあ。 と…

空よ

「これでも詩かよ」第43番&ある晴れた日に第176回 空よ、君は、いつも流れている。 君は、いつも黙っている。 おそらく君は、なにか考えているのだ。 考えながら、みずいろの夢を見ているのだ。 私は君がなにを考えているのか、知りたい。 君がなにを…

中上健次著「宇津保物語」を読んで

照る日曇る日第632回 鞍馬の北山の大樹の「うつほ」に母親と主に棲み、獣に琴を聴かせて育った藤原仲忠という琴の名手が、いつしか摂関政治の頂上に迫ってゆくというこの下剋上、逆貴種流離譚に魅せられたのは、「宇津保」すなわち「空洞」であると作者は…

佐藤賢一著「革命の終焉」を読んで

照る日曇る日第631回 1794年草月、最高権力者の地位に昇りつめ、「最高存在の祭典」を全パリ、全フランス、全世界の人々の前で華やかにことほいだ「独裁者」ロベスピエールが、その翌月の熱月7月28日には盟友サン・ジュスト、クートンはじめ21名…

今日の仕合わせ

「これでも詩かよ」第41番&ある晴れた日に第175回 その1。 お昼に大きな音を立てて柱時計が落ちたけれど、誰も怪我しなかったこと。 その2。 妻が「あなたの歯の痛いのが治りますように」と祈りながら、温かな手を私の顎に当てたら、驚いたことに痛み…